世界に遅れること約2カ月、日本でも新型コロナウイルスのワクチンがようやく承認され、接種が始まったが、コロナ治療薬でも日本の出足は鈍い。別の病気の治療に使う既存薬をコロナに転用する取り組みは増えたが、コロナに最初から狙いを定めた「コロナ新薬」は、米国や韓国では緊急使用が始まったのに、日本は企業による承認申請のめどさえついていない。

 人類がコロナを克服するにはワクチンと治療薬が欠かせず、海外の一部は、この「両輪」が揃う。ワクチン接種が進む米国では、同国製薬会社のイーライリリーなどが開発した、新型ウイルスのスパイクたんぱく質を標的とする抗体医薬「バムラニビマブ」について、米国食品医薬品局(FDA)が昨年11月に緊急使用許可(EUA)を出した。世界初のコロナ新薬だ。

 FDAは、米製薬リジェネロン・ファーマシューティカルズが開発した、中和抗体2種類を組み合わせたカクテル療法にもEUAを同月に発出した。きょう26日からワクチン接種が始まる韓国では、同国製薬会社のセルトリオンが今月、コロナ向け中和抗体の使用許可を受けた。世界で3番目の実用化だ。

 日本は、コロナ治療薬として昨年5月7日に米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」を特例承認した。もともとエボラ出血熱の治療のために開発されたが、コロナ重症患者に効果を発揮すると転用が進んだ。米国がEUAを通知した同月1日から1週間足らずのスピード承認だった。

 レムデシビルをはじめ既存薬を転用する動きは盛んで、厚生労働省の診療手引きにも複数薬が存在する。ただし、もともとの開発標的はコロナでないものばかり。一から開発に着手した新薬候補で、日本で先行するのは、武田薬品工業が海外製薬と共同開発している免疫グロブリン製剤。最終治験が始まり、早ければ今年度中に速報結果が判明する。

 現段階で国産のコロナ新薬の治験は、この1例にとどまるとみられる。手をこまぬいているわけではなく、ベンチャーや大学が有望な新薬候補の研究成果を次々に報告している。ただし治験ノウハウを持つ製薬会社との連携が進まない。流行が収束すれば感染症薬の出番はなくなる。営利を追求するならば二の足を踏むのは当然だろう。

 それでもいま、スピード感を持って踏み出すことが重要だ。海外に先行を許したワクチンと同じ轍を踏みたくない。国内製薬産業は、創薬エコシステムを形成することを目標に掲げてきた。コロナ新薬でそれが実現できなければ先行きは険しい。

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