新型コロナウイルスの影響で事業再編計画の見直しや遅れといった懸念が顕在化してきた。日本触媒と三洋化成が経営統合の中止を発表した翌週、DICがBASF顔料事業のクロージング延期、AGCとセントラル硝子は国内建築用ガラス事業の統合延期をそれぞれ発表。コロナがもたらす深刻さが改めて浮き彫りになった。

 日本触媒と三洋化成の経営統合は業界再編の引き金になると期待されていたが、昨年5月の統合発表時点と前提がかなり変わったことが統合白紙の大きな理由だ。今年4月にもコロナや原材料高騰を背景に、事業環境の見通しが不透明として経営統合の延期を発表していた。

 DICはBASFが保有する顔料事業の取得完了を2020年末までに目指していた。基幹システムの統合作業などを進めるなか、今年度に入ってコロナの影響で若干の遅延が生じた。このため数カ月の延期となる見込みで、21年1~3月期中の実行を目指す。BASFが事業展開する欧州・米国など各国・地域の競争法当局からの承認作業は、おおむねスケジュール通りという。

 また今年12月末を目標に国内建築用ガラス事業の統合を目指していたAGCとセントラル硝子は、コロナの影響から交渉作業に時間を要しているとして完了の目標時期を21年10~12月期に延期した。

 日本の化学産業全体をみると群雄割拠の状態にある。世界で戦うためにも技術力を補完し合い、一定規模を追求する再編は有効な手段である。コロナにより業界再編に拍車がかかるとの見方もあったが、現在のところ逆の作用が働いているとしかいいようがない。

 化学企業の4~9月期決算発表が山場を終え、総じて厳しい結果となった。ただ自動車生産がコロナの影響で大幅に減る一方、在宅勤務の拡大による通信・データセンター向け需要増や5G(第5世代通信)の本格始動などにより、関連する電子材料分野は好調だ。

 自動車生産が急回復するなど下期は関連需要の拡大が期待され、通期業績予想を上方修正する企業も多い。一方で深刻化する欧州でのコロナ感染拡大が、どう影響するのかが不安材料でもある。コロナが落ち着きをみせない限り、こうした不透明感は払拭できない。

 いぜん取り巻く環境は厳しいものがあり、先行きを見通すのは難しい。ウィズコロナ、アフターコロナを見据えた場合、やはり体力勝負の感は否めない。生き残りをかけて打ち出された各社の再編計画の確実な実行を期待したい。

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