新型コロナウイルス感染症の国産初となる飲み薬の実用化が遠のいた。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の薬事分科会および医薬品第二部会が先週、合同会議を開き、塩野義製薬が開発した「ゾコーバ」を現段階で緊急承認せず「継続審議」とすることを決めた。承認申請の根拠である第2相臨床試験の結果が、あらかじめ設定した主要評価項目を満たさなかった。それを踏まえれば、合同会議の判断は科学的に妥当といえる。

 従来の医薬品の承認審査では、継続審議との判定は「承認不可」の意味合いが強かった。しかし今回、塩野義が、さらに症例を増やして実施している第3相臨床試験の結果が11月頃に判明し、承認の要望が出されれば再度審議を行うという道を残した。いまだ国産のコロナ経口薬を持たない日本に、再挑戦の機会を与える点でも妥当といえる。

 塩野義以外の日本の製薬会社やベンチャー、研究機関でも、コロナの経口薬につながると期待できる初期段階の研究成果が、いくつも報告されている。ただ現時点で臨床試験に進んでいる事例は見当たらない。向こう1~2年に実用化を見込めそうな有望案件はなく、コロナ薬開発に手を挙げる国内製薬は残念ながら極めて少ない。

 日本では、これまでに米製薬会社のファイザーとメルクの、それぞれの経口薬が特例承認されているが、医療安全保障の観点から国産薬を実用化し、供給体制を整えることは重要だ。コロナウイルスがエンデミック(特定の地域・季節的感染)に本当に移行するか、まだまだ先行きは見通しにくい。感染が急拡大する局面では医療提供体制が逼迫しかねず、医師が処方のしやすい経口薬は欠かせない。

 感染症を長く重点領域に据えてきたとはいえ、欧米メガファーマの10分の1にも満たない事業規模の塩野義が、米国製薬大手と大差ないスピード感で実用化を目指す姿勢は大いに評価される。実用化が遅れるほど商業的成功の果実は小さくなる。営利目的も含めて国産コロナ経口薬の開発を目指すのは事実上、塩野義に絞られたかたちだ。今後判明する第3相試験で、明確な有効性・安全性が示されることを期待したい。

 新型コロナワクチン・治療薬の開発競争を通じて知るべきは、研究機関やスタートアップによる基礎研究の成果を目利きし育み、大企業のノウハウ・資金力で迅速に社会実装する「創薬エコシステム」の重要性が増しているという点だ。「世界有数の創薬国」との評価は、いまや日本に当てはまらない。世界で勝ち抜くビジョンと具体的戦略を新しく作り上げる時が来た。

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