EUにおける化学品の生産がいぜん停滞している。欧州化学工業協会(CEFIC)の最新レポートによると、2019年の生産は前年比1%減で、20年も同水準にとどまる見通しだ。厳しい環境からの脱却には、まだ時間がかかるだろう。
 19年の生産減退は自動車、電気製品、テキスタイル向けなどの生産低迷が背景と分析している。さらに世界経済の減速、政治的不安定、貿易摩擦、ブレグジット(英国のEU離脱)の行方などが化学産業の事業環境に影響を与え、不安定な要素が少なくないと判断している。
 こうした状況下、欧州の化学企業は世界市場でどのように存在感を高めていくのだろうか。エボニック インダストリーズのハラルド・シュヴァーガー副会長が本紙との会見で、サステナビリティ(持続可能性)にかかわる事柄は「(長期的な)チャレンジであると同時に化学企業にとってオポチュニティ(事業機会)でもある」と語ったように、サステナビリティがキーワードの一つであることに異論は少ないと思う。
 競争力のある原料を入手できる立地にプラントを建設する欧州の化学企業は多い。しかしシェールガスの開発が進む米国に比べて、原料優位性に乏しい欧州に主力生産拠点を抱えることから、生き残るための施策を打ち出すことは急務である。その一つがサステナビリティの徹底であるともいえる。
 しかし、いくつかの欧州化学企業の革新的な取り組みをみると、将来の化学産業の基盤を作り上げる可能性が大いにあることが分かる。例えばマテリアル事業の原料をバイオ由来やリサイクルベースへの転換を目指すDSMは、その一つだ。超高分子ポリエチレン繊維「ダイニーマ」の原料について少なくとも60%をバイオベースに切り替えたり、エンジニアリングプラスチックのすべての既存ポートフォリオに重量ベースで25%以上のバイオおよびリサイクルベースの素材を利用した製品を導入する目標を決めている。ダイニーマでは、さらに顧客、廃棄物処理業者もリサイクル事業を手がける企業などと組んで、リサイクルのためのネットワークを作り上げ、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)への貢献につなげる活動も始めている。
 CO2を原料にポリエーテルポリオールを生産・供給するコベストロや、同様にCO2からブタノールやヘキサノールの生産を目指すコベストロなども、社会や企業活動を大きく変える「ゲームチェンジャー」になり得る。化学がオポチュニティを確実にものにするために欠かせぬ技術であることが分かる。

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