欧米を中心に、これまでにない感染拡大が続き、世界保健機関(WHO)が23日には緊急事態宣言を出すにいたった新たな感染症「サル痘」。わが国でも25日、初の感染者が確認された。新型コロナウイルス感染症の収束も見通せないなかで、2つのパンデミックが重なることは避けなければならない。コロナ禍で得たさまざまな知見や経験を総動員し、これ以上の感染拡大を防ぐことが求められる。

 ウイルス感染症の一種であるサル痘は、もともと西アフリカの一部でのみ流行していた。しかし2022年5月以降、欧米を中心に市中感染事例が相次いで確認され、7月27日までの間、感染疑い例も含めると78カ国・地域から1万8000人を超す患者が報告されている。厚生労働省の資料によると、体液や血液などへの接触のほか、性交渉によって感染するといい、長時間の対面による飛沫感染例もあるとしている。

 サル痘の場合、幸いにも有効性が見込めるワクチンや治療薬が存在する。予防に関しては天然痘ワクチンが発症・重症化を防ぐうえで有効だ。わが国では天然痘ワクチンが備蓄されており、サル痘の患者やその接触者、診療に当たる医療従事者らに接種できる体制の構築が進む。きょう29日には、KMバイオロジクス製の天然痘ワクチンをサル痘に利用できるようにするための審議会も開かれる。

 治療薬についても、わが国では未承認ではあるものの、海外では天然痘薬「テコビリマット」が薬事承認を受けている。政府は、臨床研究の枠組みでテコビリマットを患者らに投与できる仕組みを整えており足元、東京、大阪、愛知、沖縄の4都府県の病院で使えるようにしている。

 国内での感染拡大を防ぐには患者を早期に発見し、その連鎖を断ち切ることが欠かせない。そのためには検査体制の構築と、状況に応じた能力強化が必要になる。今月22日までに47都道府県すべての地方衛生研究所(地衛研)で検査ができるようにした。

 目下、市中感染が疑われる事例が生じていないとはいえ油断は禁物だ。地衛研だけでは検査できなくなる事態を見据え、リスクシナリオを描く必要がある。その際、民間検査機関の活用も選択肢になり得るだろう。

 新型コロナウイルス感染症から得た教訓を踏まえると、検査薬不足が足かせとなる可能性が高い。すでに一部企業が海外製品の導入などに取り組んでいるが、医療安全保障の観点からも、政府がこうした動きを支えることが欠かせない。必要に応じて、薬事承認取得に向けたサポートも視野に入れるべきだ。

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