化学、プラントなどの企業によるスタートアップの取り込みが活発化している。最近のスタートアップへの出資をみると、自社の事業と無関係とはいえないまでも「やや飛び地」との印象を受けるものが多い。脱炭素、デジタル、ライフといった世界的な課題解決に向けたソリューションを手にしようと、長期視点から投資先を選択している。

 JFEエンジニアリングは2020年7月、リース大手の東京センチュリーと共同で投資ビークルを設立し、これまでにスタートアップ21社に出資した。デジタルトランスフォーメーション(DX)関連、ヘルステック関連、航空宇宙分野などが主な投資先となっている。

 日揮ホールディングスは21年4月、独立系ベンチャーキャピタルであるグローバル・ブレインとコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を設立している。再生医療などの先端医療分野、次世代太陽光発電や風況予測などの再生可能エネルギー分野、核融合技術などへの投資実績がある。

 JFEエンジ、日揮HDとも、ベンチャーキャピタルに習熟している企業と連携しているのが特徴。出資先の選択の際、冷静な目で見ることができ、その後の本格事業化では金融面の適切な支援も期待できるだろう。22年7月にCVC設立を発表した三井化学も、グローバル・ブレインをパートナーにしている。

 先行企業も着実に実績を重ねている。19年にCVCを設立したENEOSホールディングスでは、まちづくり・モビリティ、低炭素・循環型社会、データサイエンス・先端技術を注目領域に挙げ、これまでに約30社に投資した。自動宅配ロボット、デリバリープラットフォーム、ウニの陸上養殖、道路発電など、街や農業を意識したテーマが含まれる点に独自性を感じる。

 三菱ケミカルグループは、18年に既存事業の拡大を目的に米シリコンバレーにCVCを設立したのに続き、長期的視点で新たな成長分野を確立する狙いで21年にもCVCを設立した。これまでに共同開発や共同事業を含む約200件の協業を実現している。

 これらスタートアップの技術を、いかに自社事業に結びつけていくかは各社の腕の見せどころだ。JFEエンジニアリングは、出資するスタートアップの技術を組み合わせた診断ソリューションを提供する新会社を、22年6月に設立している。単独では事業化が困難でも、大手企業が介在することで可能になるケースは十分あり得る。やり方はいろいろにしても、事業化に向けた青写真は描いておいた方がよいだろう。

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