2022年には国内エチレンプラントの半数以上が稼働50年を超える。設置後40年以上の高圧ガス設備は、40年未満の設備に比べて事故件数が2倍になるというデータがある。修繕費は年ごとに増え、10年間で倍以上になった石化プラントもある。現場従業員もプラント同様、高齢化が進んでいる。これらの課題に対し、経済産業省は「保安のスマート化が解答だ」としているが、事業者をその気にさせるには、確かな効果があることを明らかにせねばならない。
 経産省は、IoT(モノのインターネット)など新技術の保安業務への導入促進を目的に、高圧ガス保安法の合理化を進めてきた。17年にはスーパー認定事業所制度を創設し、先進的な取り組みを行っている事業所には、連続運転期間を最大8年にするなどのインセンティブを与えた。19年には状態基準保全(CBM)制度を設け、従来の定期的なメンテナンスに代わって、状態に応じたメンテナンスを行うことを認めた。将来的には定期修理という制度そのものをなくすことにつながる。
 スーパー認定事業所は増えているものの、業界全体としてはスマート保安に向けた投資が活発化しているとは言い難い。やはり「投資に見合うのか」という思いが躊躇させるのであろう。
 化学、エネルギー、鉄鋼などの業界団体と経産省で構成するスマート保安官民協議会が6月に第1回会合を開いた。官は技術革新に対応した規制見直し、民は新技術の開発・実証・導入を進める方針が確認された。これを受けて、その下に設けられた高圧ガス保安部会が「スマート保安アクションプラン」を策定した。「プラントの将来像」「民の課題」「官の課題」の3本柱で構成されている。
 将来像として示されたのは、スマート化の内容である情報の電子化、現場作業の効率化、意思決定高度化だが、前提としてデジタルトランスフォーメーション(DX)を導入した企業組織の変革が必要としている。
 民の取り組むべき課題は、短期的にはセンサー、タブレットなどのデバイスの活用、プラントデータの蓄積など。中期的には第5世代通信(5G)を活用した保安作業、ロボットの活用。長期的にはデジタルツインによる状態可視化、遠隔操作、複数事業所の一括監視、運転の自動化などを挙げている。官の課題は高圧ガス保安制度の総点検、スマート保安投資を促す仕組みの導入、スマート機器やAI(人工知能)の活用促進など。いずれも21年度までに実施するとした。
 高圧ガス保安部会の議論を通じ、スマート保安の普及に弾みがつくことを期待したい。

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