高齢化の進む台湾がスマート医療の実現に動き出した。生活習慣病が蔓延、介護人材の不足が深刻化する一方、国民皆保険制度のなかで、ICT(情報通信技術)先進国として膨大な健康保険のデータベースが蓄積されている。その活用拡大を図ろうというものだ。中央健康保健所が一括管理しており、画像診断のデータベースも豊富。各研究施設からアクセス可能となっている。これらビッグデータは高付加価値な医療・介護サービスを生む源泉と期待されているが、従来は匿名性の高いデータしか開放されず、研究材料として情報量が不足していた。

 台湾政府は、新産業のヘルスケアを育成するべく分子標的薬などの臨床研究に力を入れてきた。その知見も生かしながら、ICTを組み合わせて個別化医療を実現する「デジタル健康」に傾斜する方針を打ち出している。その一環で、北部の基〓(隆)市近郊にある台湾大学付属病院の分院が中心となり、通院歴のある地域住民約3000人の詳細なデータの活用を開始した。血圧や性別などを分析し、心臓血管系の疾病予測モデルの構築に取り組む。データは30~40年前まで逆上れるという。

 予測手法は、日本企業を含む海外の知見も参考にしながら台湾向けに最適化するとし、将来的にはAI(人工知能)による解析も視野に入れている。データ解析の対象地域を拡大し、地域間を比較する研究も活発化していくと予想される。

 ビッグデータとウエアラブル端末を組み合わせた展開も構想する。台湾では、すでに心拍数や睡眠をモニタリングする端末が市販されている。ヘルスケア産業を牽引する工業技術研究院(ITRI)も、心拍出量を超音波で計測するハンディ装置などを開発している。ビッグデータとウエアラブルの融合は、疾病を回避する生活スタイルを指導する「予防医学」の普及や、遠隔医療を可能にする。ITRIの生醫與醫材研究所の林〓(a122)萬所長は「台湾のICT企業が持つ優位性を生かしてシステム統合を図るとともに、異業種の参入も促し、政府目標の達成に尽力したい」と話す。

 台湾の医療関係者には、省力化や効率化に資する技術を積極的に受け入れる土壌があるという。背景に人手不足があるが、新型コロナウイルスの猛威が医療従事者の意識を「非接触」を実現するシステムに向けさせることにもなるだろう。台湾は人口2300万人程度とはいえ、スマート医療で世界に先駆けたモデルとなれば一大産業の出現を促す。ウエアラブルデバイスに求められる高機能性素材の需要も高まりそうだ。

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