セラニーズのエンジニアード・マテリアルズ(EM)事業がアジア地域で新たな成長の段階に入る。年平均で2ケタの売り上げ増を目指しており、生産体制の強化や買収、新市場の開拓などを通して目標を実現する。ポリプラスチックスの持ち株売却を機に、自社株の買い戻しと主力事業の拡大を通して、株主価値をより高めていく戦略の柱と位置付けられる。
 ポリプラスチックスは1964年にダイセルとの合弁会社として発足した。アジア市場参入の足掛かりになったものの、45%の出資では経営判断に十分関与できないジレンマも抱えていた。持ち株を手放すことで、合弁会社であり、同時に競争相手でもあったポリプラスチックのポジションもはっきりする。
 セラニーズのEM事業は、多様なエンジニアリングプラスチックを中心に構成されている。元来、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリアセタール、超高分子量ポリエチレンなどに強みを持ち、買収によりポリアミド、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、PC/アクリロニトリルブタジエンスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合樹脂などのコンパウンドを製品ラインに加えてきた。
 同事業の売上高は2010年の約11億ドルから19年に約24億ドルまで増えた。アジア地域では一連の買収と積極的な投資を続けたことを背景に、さらに高成長を遂げ、関連会社を除く売上高は10年の1億5200万ドルから19年には5億3300万ドルになった。年平均売り上げの伸びは欧米市場の約2倍に達する。
 ロリ・ライヤーカークCEO(最高経営責任者)は7月20日(米国時間)のオンライン会見で、これまでの10年で中国とインドで現地生産体制を強化し、中国、韓国、日本に開発拠点を設けたことに言及し、アジア地域の事業が大きく発展したと強調した。このうえで今後も「現有事業をベースにした成長と買収」をテーマにする方針を示した。さらに「リチウムイオン電池、電気自動車、5G」の3つの領域における成長を追求する意向も明らかにした。
 新型コロナウイルスの感染拡大で事業環境が悪化しているため、多くの欧米化学企業と同様にセラニーズも設備投資額の削減などを決めている。買収についても「20年は良好な時期ではない」としており、具体化するとすれば21年以降になる見通しで当面、慎重に戦略を実行していくことになろう。かつて本紙会見で「今後5~10年でEM事業の規模を2倍にしたい」と語ったライヤーカークCEO。その舵取りを注視したい。

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