「仕事のやりがい」。ともすれば“昭和のサラリーマンか”などとからかわれ、今の時代には、そぐわない感もある言葉。この言葉を改めて見つめ直し、グループを挙げて成長への新たなチャレンジに取り組んでいるのが、日本企業で最大の売り上げ規模を持つトヨタ自動車だ。現在、独VWを抜いて世界トップの自動車製造・販売企業となった。自動車産業に従事する550万人への貢献と感謝を伝えるコマーシャルが話題を集めたのも記憶に新しい。豊田章男社長は、時折行うネット会見でも「現状に甘んじることは企業の成長が止まること」と改革に向けて檄を飛ばす。

 現在、同社はグループを含めた社員の新たな成長に向け「温故知新」的な取り組みを相次ぎスタートさせている。トヨタが本拠を置く愛知県や中部地方の産業界は「足元の自動車産業が非常に繁忙ななかで、水素社会対応や(起工式をした)未来都市『ウーブン・シティ』など、何をするにも非常に動きが早いのに驚く」(名古屋市の自動車向け樹脂関連商社)と、自ら改革をスピードアップする姿に改めて注目している。

 そのトヨタが取り組む社員の意識改革の一つが、異業種体験を通じた「仕事のやりがい」の再認識だ。地元経済紙などで大きく紹介されている。材料などの仕入れ先企業や、陶磁器ほか多様な業種・業界へ若手・中堅社員を出向させ、一定の経験を積ませるというもの。人事系の幹部は「トヨタ内の当たり前が(外では)そうではないことを学んでもらう。社内ではできない経験をし、一人ひとりが、やりがいを再認識する一つの機会になる」と、地場情報紙で語っており「人間力を磨くことが仕事のやりがいを高め、結果として企業成長につながる」と強調する。

 「企業は人」とか「人財」といった表現がよく言われる。トヨタは、大胆な制度改革や組織改編などを進めるのと同時並行して、社員一人ひとりの人間改革に取り組んでいる。大変革期に入った自動車産業で「生き残りを図らねば」という大きな危機感の表われの一つとも言えるだろう。
 トヨタは、2021年の世界での自動車生産の目標として、前年比20%増の940万台を掲げている。中国や新興市場の活況が継続すれば、若干上振れする可能性が高く「2年連続世界トップ」も視野に入る。ただ改革の手綱を緩めれば瞬時に首位陥落もあり得る。日本最大手の企業が取り組む「仕事のやりがい」改革。改めて企業は社員一人ひとりが大事ということを示している。

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