トヨタ自動車が1月末に発表したグループの2020年世界販売台数は、首位だった独フォルクスワーゲンを抜き、5年ぶりにトップに返り咲いた。お膝元の中部経済圏も「歓迎」の声で沸き立った。新型コロナウイルス感染拡大の影響が世界的に長期化の様相にあり、日本でも緊急事態宣言の延長など経済活動にとって暗いニュースが続いている。そうしたなかでトヨタが世界トップを取り戻した。わが国の産業界全体からみても、もっと注目してよいのではないだろうか。

 コロナの経済への影響が顕在化した昨年の5月連休前後、トヨタ本社を擁する愛知県を中心とした中部経済圏は厳しい状況に迫られた。トヨタも愛知県や九州などの国内工場で減産、デンソーやアイシン精機ほかのグループ1次企業でも工場生産への影響などが相次いだ。

 しかし世界の自動車市場がコロナの影響にかかわらず昨春から急回復。とくに北米や中国の自動車販売拡大が奏功し「中部圏内でみれば自動車産業は昨年並みか、それ以上」(名古屋市内の化学系支店長)、「デンソーなどティア1系企業も昨年9月以降から急回復」(岐阜県の自動車向け材料メーカー社長)との声が多く聞かれた。

 新年を迎え2月に入ってデンソー、アイシン精機などトヨタ系8社の4~12月期決算の発表が続いた。トップを切ったデンソーは増収増益を発表、同時に21年3月期の売上高、利益を上方修正した。2日に会見したデンソーの松井靖経営役員は「地域でみれば中国の自動車販売の伸びが結果的に大きく貢献」と強調。世界的な自動車市場について「昨年末までに底を打ち、今は戻ったというのが実感だ」と改めて示した。

 部品・部材各社の好調を継ぐかたちで、トヨタは21年(1~12月)の全世界の生産計画を前年比で約20%増の940万台に設定したと発表。同社グループ全体でも高水準な自動車生産をグローバルに継続する方針を示した。

 世界最大の自動車市場である中国の自動車生産・販売拡大を筆頭に、日本国内も300万台以上の生産規模に引き上げる。19年、20年と日本国内の生産は290万台に終わった。大台の回復は国内の部品・材料各社にとって朗報だろう。

 世界的なコロナ禍のなか、日本の製造業を牽引するトヨタ。賞賛に値する企業と言えよう。豊田章男社長は「コロナは国家的危機」と強調するが、一方で「有事にその真価が分かる」という言葉を図らずも自ら示すことになった。誠に頼もしい限りではないか。

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