中部経済圏が少しずつ回復軌道に乗り始めた。エリアの主要産業であり、日本経済の屋台骨といえる自動車産業。圏内の主力工場で減産や生産調整に取り組んできたトヨタ自動車は、とりわけハイピッチだ。同社によれば9月、10月の生産台数は海外、国内とも前年同月を上回る予定という。8月も加えた直近3カ月の国内外合わせた見込みとして、前年同期比で約3%増の228万台を計画する。愛知県下の自動車向け樹脂メーカー社長は「今月、来月とも前年を超えるペースで、回復を実感している」と、ひとまず安堵の様子。新型コロナウイルスに揺れた中部の基幹産業は、再始動に拍車がかかっている。

 トヨタグループ各社は、新型コロナの感染拡大による世界的な経済後退を受けて、今年初めから6月ごろまで生産シフト見直しや生産台数・工場稼働率の調整を行ってきた。一時、前年同月比で約40%減と、半減近い生産調整に踏み切った国内工場もあり、「さらに数カ月続けば事業が継続できなくなるのでは」(愛知県内の自動車工場向け機器会社)と懸念されるほど。愛知県下や中部エリアの自動車産業チェーンは大変な危機感に包まれた。

 7月末にはデンソーやアイシン精機、ジェイテクトなど主要なトヨタグループ8社の2020年4~6月期連結決算が発表された。新型コロナにともなう経済後退、世界的な自動車販売落ち込みを受け8社すべてが減収を計上、最終赤字転落の会社が半数以上となった。ただ「6月から7月初旬まであたりが底」(デンソー)とみて、21年3月期については6社が最終黒字確保を予測した。

 グループ各社の業績は当然、メインの取引先であるトヨタの生産・販売がカギとなる。トヨタは7月初旬から急ピッチで国内外工場の生産を元に戻している。愛知県下の主力工場の一つは、ほぼ昨年同月並みの稼働率まで上げた。国内外合計の生産台数は、10月にも前年同月を上回ることが確実とみられる。名古屋市内の化学品メーカーによれば「(すべてではないが)部材や部品調達などが昨年同様の繁忙感をみせつつある」。

 中部経済連合会や中部経済産業局が9月初頭、中部エリアの景況判断を相次いで発表している。自動車産業や自動車関連分野の改善が目立ち「自動車産業の回復が牽引力の一つ」(中部経済産業局)とし、動きが軌道に乗ったことを裏付けた。モノづくりの集大成の代表例が自動車であるのはいうまでもない。中部圏内の自動車産業回復は、今の日本経済にとって掛け値なしの朗報だろう。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る