アジアでバイオマス原料由来化学品の増産に拍車がかかっている。化学基礎原料のナフサ、包装材や自動車部品に使われる合成樹脂、さらに潤滑油や樹脂の原料になるカルボン酸など、幅広いバイオマス化学品の認知度が近年急速に高まり、各メーカーが増産投資に乗り出した。循環型経済への移行にバイオマス原料は極めて重要な役割を担う。しかし2070年ごろにかけて地球人口の増加が続くなか、食料や燃料など他用途との競合関係を調整し、サプライチェーン全体でバイオマス原料の持続性を担保することが不可欠だ。

 フィンランドのネステは23年までに、シンガポールでバイオ航空燃料やバイオナフサを生産する「バイオリファイナリー」を増強する。オランダでも投資を検討中。今年、三井化学や韓LG化学は同社からバイオナフサを調達した。

 仏アルケマは中国とシンガポールで、非可食植物トウゴマ由来のエンジニアリングプラスチック、ポリアミド11の生産体制を整え、自動車や3D印刷分野での需要拡大に応える。伯ブラスケムはタイでバイオポリエチレンの大型投資に乗り出す。中国とインドでは、同じくトウゴマ由来のカルボン酸の一種、セバシン酸の生産が増えている。

 バイオマス化学品の普及は、化石燃料由来品に比べると高い価格がネックとなっていたが、シェルなどエネルギーメジャーが原油精製能力の削減を進めるなか、原油価格との関係でバイオマス製品の競争力も長期的に確保されやすくなる見通し。ただ土地や政策的な制約の下でバイオマスの増産には限界がある。世界の農地の3割以上が畜産飼料の生産に使用されているとのデータがある一方、英オックスフォード大学の研究者によると、全農地の約13%がバイオ燃料や化学品原料の生産に使われている。化学品・燃料用バイオマスの増産は、食料や飼料の増産とトレードオフの関係に陥る可能性が高い。

 国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、資源の持続性を確保しつつ、増加する人口を養い燃料需要を満たすことを謳う。トウゴマを原料にヒマシ油や、セバシン酸など化学品を生産する印ジャイアントアグロ・オーガニクスは、顧客のアルケマなどと共同で持続可能なトウゴマサプライチェーンの実現に取り組む業界組織を立ち上げた。同社のアバイ会長は「できるだけ多くのステークホルダーに参加してもらいたい」と話す。

 バイオマス原料活用に向けても、食料増産とのトレードオフ解消や技術開発に必要なコストを、化学企業や顧客、消費者を含むサプライチェーン全体で分け合うべきだ。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

 

社説の最新記事もっと見る