岸田首相が掲げる「新しい資本主義」のグランドデザインおよび実行計画が7日に閣議決定された。経済を立て直して新たな成長軌道に乗せるため(1)人(2)科学技術・イノベーション(3)スタートアップ(4)脱炭素・デジタル化-に投資を重点化するものだ。

 化学業界にとって特筆すべきは、実行計画の科学技術分野の重点投資先に、微生物や植物を用いて化学品や燃料、医薬品原料、たんぱく質などの有用物質を生産する「バイオものづくり」が大きく取り上げられたことだ。政府の成長戦略にバイオものづくりが記され、10行も紙幅が割かれたのは初めてではないか。

 具体的には、バイオものづくりについて「海洋汚染、食糧・資源不足など地球規模での社会課題の解決と、経済成長との両立を可能とする、二兎を追える研究分野であり、この分野に大胆かつ重点的な投資を行う」と明記した。

 経団連も政府の成長戦略に呼応するかたちで、日本経済を力強く牽引すると期待される有望分野の一つとして「バイオ産業」を位置づけた。同時に専門委員会を新設し、日本におけるバイオ医薬品開発の草分け的企業である中外製薬の小坂達朗特別顧問を委員長に起用した。

 世界でバイオものづくりの中核を担っているのは、微生物設計を効率的に行うバイオファウンドリーだ。日本でもバイオファウンドリー企業を育成するため化学、食品、製薬、エネルギーなど大手企業との共同研究を推進しなければならない。そこで必要になるのが民間投資を呼び込む「呼び水」の役割を果たす政府の予算措置だろう。

 バイオものづくり分野は現在、国際的に投資競争が激化している。米国では2021年だけで2兆円程度の民間投資がなされている。中国は同分野の研究開発に1000億ドル(約11兆円)以上の政府投資を行う方針を掲げている。5月には「第14次5カ年計画バイオエコノミー発展計画」を発表。年間売上高が100億元を超す企業を大幅に増やす方針も打ち出した。

 こうした競合各国の支援策に対してイコールフッティング(競争条件を同じにすること)を図るには、まさに実行計画に記された「大胆かつ重点的な投資」が絶対に欠かせない。米国や中国が兆円単位の投資を行うなか、わが国でも少なくとも1兆円規模の基金を創設する必要があるだろう。バイオものづくりは、今の日本が世界に勝てる可能性がある数少ない成長分野であると言える。経済産業省は財政当局に遠慮することなく、堂々と22年度補正予算で必要な事業費の確保を目指すべきではないか。

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