福岡県と久留米市が連携し、バイオ関連企業・研究機関の集積を目指してきた「福岡バイオプロジェクト」が着実に成果を上げている。2001年の発足当時、県内に32社しかなかったバイオ関連企業は19年には225社まで増えた。地元企業によるバイオ関連の製品化も146件を数えるまでになった。
 もともと久留米地域は福岡県内最大の農業生産地域。古くから酒、醤油など発酵・醸造技術に優れ、オールドバイオの拠点として栄えてきた。プロジェクトでは、そこにバイオ関連のインキュベーション施設「久留米リサーチ・パーク」(KRP)を設置し、久留米大学、九州大学、福岡大学など県内の医療系大学、研究機関との連携を加速することで、創薬と機能性食品を対象にバイオ先端産業の創出を目指してきた。
 プロジェクトの成果として企業価値230億円と推計される核酸医薬ベンチャー、ボナック(久留米市)や、九大発ベンチャーで国産ゲノム編集技術を開発したエディットフォース(福岡市)などが生まれた。農業組合法人の福栄組合(久留米市)は、生鮮肉類として全国で初めて県産地鶏「はかた地どり」を認知症予防効果がある機能性表示食品として発売している。
 この福岡バイオプロジェクトを、より進化させようと躍起になっているのが大久保勉久留米市長。米モルガン・スタンレーでマネージングディレクターを務めていた経験を生かして、投資銀行モデルの新プロジェクト「Kurumeバイオエコシステム」を推進している。
 例えばボナックなど世界的に優れた技術を持つベンチャーに自身の人脈などを活用して米国の投資銀行を紹介し、いきなりナスダックに上場できるよう協力する。上場で得られた資金をシーズマネーとして提供してもらい、新たなベンチャー企業の立ち上げを支援する。新たに生まれたベンチャーには国家プロジェクトの獲得などさまざまな支援を行い、IPO(新規上場株式)企業を誕生させるというエコシステムだ。
 その一環として組織透明化技術を発明した東京大学の上田泰己教授を直接口説き、上田教授が立ち上げたベンチャー「CUBIC Stars」をKRPに誘致した。上田教授が地元の久留米大学附設高校出身という縁もあった。
 久留米は地下足袋からゴム産業が発展し、世界的企業であるブリヂストンを生み出した地でもある。大久保市長のリーダーシップの下、同様のイノベーションエコシステムがバイオ分野で確立され、世界的企業が生まれることを期待したい。

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