エンジニアリング産業の事業環境が大きく変わろうとしている。短期的には原油価格の低迷により、エネルギー関連のプロジェクトの投資決定が先延ばしされている。新型コロナウイルスの世界的流行で設計・調達・建設(EPC)遂行に支障が出る可能性もある。中長期的には欧米石油メジャーが石油・天然ガスから再生可能エネルギーへ投資シフトを加速していることが懸念材料となっている。新興国の電力需要は底堅いとの見方はあるが、そこに安住していては変化に取り残される可能性がある。ここ数年、エンジニアリング各社が力を入れてきたデジタル技術を用いて収益力を高めつつ、長期の視点でビジネスモデルを見直す必要がある。

 新型コロナのために経済活動が停滞し、エネルギー需要は大幅に落ちる見通しだ。国際エネルギー機関は4月、2020年の石油需要は前年比で過去最大となる日量930万バーレル減るとの予測を発表した。通年ベースでは前年比9%減少するという。WTI価格は4月中旬にマイナス価格をつけた後、直近は40ドル近辺でもたついており、これ以上の回復は予測しにくい。欧米石油メジャーは相次いで設備投資削減、あるいは再エネへの投資を打ち出しており、石油・天然ガス関連の新規プロジェクトが成立しにくい状況だ。

 国内エンジニアリング大手3社の19年度受注実績は各社とも2000億円に届かず、かつてない低水準となった。日本のエンジニアリング企業が競争力を持つLNGプラントでさえ、中長期でみても強気の予想は立てにくくなっている。

 3社はここ数年、デジタル技術の活用に力を入れており、EPCを中心とする業務効率向上と、顧客に対する新しいサービスの提供に取り組んでいる。設計だけでなく調達、建設業務もデジタル技術で進捗管理を行おうとしており、コロナ感染防止のために現場への投入人員を減らさねばならない状況においては効果が期待できる。またデジタル技術を用いた顧客プラントの操業支援、生産性向上、消費エネルギー削減などのサービスも成果が表れつつある。

 当面は、こうした収益力強化の取り組みにより、売上高が伸びないなかで利益確保を図るとしても、受注高が減少し続ければジリ貧に陥る。炭化水素系プロジェクトは重要な柱として残るであろうが、第2・第3の柱となる事業を育てなくてはならない。電力、水素も含めた再エネ、廃棄物リサイクル、交通、医薬医療などライフサイエンスといった分野が考えられよう。ただし、どこで強みを発揮できるのかは見極めが必要だ。

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