医薬事業は景気に左右されにくく、今後も堅調な成長が期待されるものの、新薬創出の難易度向上と医療費削減圧力という大きな環境変化にさらされている。医薬専業や総合化学の医薬品部門であれば、バイオベンチャー買収や大型新薬候補の導入でパイプラインを拡充し、生き残りを図ることが可能だろう。 一方で多大な投資を医薬事業に投じるのが難しいファインケミカル企業では、生き残りをかけたビジネスモデルの変革が求められるだろう。そのなかで自社の強みを生かしながら、独自の医薬事業戦略を展開しようとしているのが日本化薬と日産化学の2社だ。

 日本化薬は新薬開発も手がけているが、ジェネリック抗がん薬やバイオシミラーに強みを持つ。2016年には三菱ガス化学と合弁で「カルティベクス」を設立し、バイオCDMO(医薬品開発・製造受託)に参入した。日本化薬は、従来から低分子医薬品の受託生産を手がけてきたが、バイオ医薬品まで範囲を広げることで受託ビジネスを収益の柱の一つに据えていく考え。将来的には高崎工場(群馬県)でバイオ医薬品の原薬開発製造から製剤化まで一気通貫で行うことを視野に入れる。同社は国内初の抗体医薬のバイオシミラーを市場投入した企業でもあり、そこで蓄積したノウハウを活用した薬事ソリューションもパッケージで提供し、競合と差別化を図る方針だ。

 日産化学は精密有機合成技術を生かし、医薬事業において非臨床段階までの自社創薬と低分子医薬品のCDMOを手がけている。事業成長に向けては、中分子医薬品として今後成長が期待されているペプチド医薬品市場への参入を目指している。すでに保護基を使わない独自のペプチド液相合成技術を確立。従来のペプチド液相合成でラセミ化(アミノ酸の不斉異性化)を防ぐため必須とされていた、保護基の導入と切り離しの工程をなくす技術で、製造コストの大幅低減が見込まれる。同技術を武器にペプチド医薬原薬受託ビジネスの立ち上げを目指す。

 日本化薬、日産化学とも自社創薬を捨てたわけではない。ただ現在、新薬開発の成功確率は3万分の1で、10年以上の時間と数百億~数千億円規模の費用を要するなど以前にもましてハイリスク・ハイリターンのビジネスとなっている。成長が見込まれるバイオ医薬、ペプチド医薬の受託ビジネスによって安定収益基盤を確保することで、新薬開発のリスクをヘッジする両社の戦略は、経営資源の限られるファイン企業がとるべき医薬事業戦略の方向として間違ないものだといえる。

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