2008年に起きたリーマン・ショックから10年あまり、軌道に乗りつつあった日本のベンチャーエコシステムの土台が再び揺らいでいる。新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退にともない、新興企業に資金が循環しにくくなってきた。資金繰りの悪化から事業の継続さえ危ぶまれる状況にある。規模に関係なく多くの企業が危機に直面する極めて苦しい局面だが、将来を見据えて何とかエコシステムを維持したい。

 新型コロナ以前は好環境にあった。一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターによると、19年のベンチャーキャピタルによる国内投資金額は2161億円と、前年に比べ58・9%増え、過去最高を記録した。投資1件当たりの金額規模が拡大するとともに、起業間もないスタートアップにも資金が回り始めた。高リスクでも将来有望なアイデア・技術を積極的に育成しようという機運が、ようやく日本に醸成されつつあった。

 そこを新型コロナが直撃。コロナ以前に2兆5000億円あったバイオベンチャー業界の時価総額合計は2月に2兆円を下回る規模に一気に縮んだ。株式市場から思うように資金を調達できないとみて複数のバイオベンチャーは上場を見送った。上場中止の動きはバイオだけでなく、いま、さまざまな業種で連鎖的に発生している。

 元来、投資家は素材やバイオを敬遠していた。アカデミアの着想を社会実装するまでに長い研究開発期間を要するためだ。成功確率は決して高くなく、開発サイクルの短いITサービスなどに比べてボラティリティが比較的高い。ただ国際社会が抱えるさまざまな課題の解決に素材・バイオ技術は欠かせず、専門ファンドが立ち上がるなど注目が集まり始めていた。

 大手企業もオープンイノベーション活動を強化、コーポレート・ベンチャー・キャピタルの設立も相次いだ。自前の研究開発よりも外部に投資する方が効率が良いとの見方も増えた。新型コロナは、こうした機運を一瞬にして冷やした。多くの投資家がボラティリティの高い投資を回避する方向に舵を切り、投資先の厳選をし始めた。

 素材・バイオ系ベンチャーは販売製品を持たず、投資家から集めた資金を研究開発に振り向けており、金融収縮を受けて事業活動が滞る懸念がある。リーマン・ショックでも同じ事態に陥ったが、新型コロナは収束が読めないだけに影響は計り知れない。コロナ危機から経済を立ち直らせ、力強い企業成長を取り戻すにはイノベーションが欠かせず、そこにベンチャーエコシステムの果たす役割は大きい。

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