新型コロナウイルスは人々の価値観の変化や行動変容をもたらし、産業構造を大きく変えようとしている。リモートワークが浸透するなか、企業は社内業務、顧客接点、商品・サービスの提供などで変革を迫られている。インターネットを介したビジネスに取り組んできた小売り分野だけでなく物流、モビリティ、医療、不動産、観光、教育など、さまざまな業界でデジタルシフトが加速するだろう。
 日本企業は、この大きな潮流を捉え、自らのビジネスモデルを転換していくことが求められる。変化に迅速に対応するためには、外部資源を積極的に取り込むオープンイノベーションが必須となるだろう。
 そこでイスラエルのスタートアップとの協業を提案したい。同国ではIoT、サイバーセキュリティー、AI、ビッグデータ、AR/VR、遠隔医療などの分野で革新的企業が続々と生まれている。とくにリモート、デジタル、オートメーションという「RDA Tech」分野の技術開発では世界の先頭を走る。これらはコロナ禍で顕在化した課題の解決につながる分野だ。革新的技術の創出に長けたイスラエル企業と、グローバル事業展開や緻密な計画立案・執行を得意とする日本企業が補完し合い、協業することで、ポストコロナ時代に新たな価値を提供できる可能性がある。
 理屈上、補完関係にある日本企業とイスラエル企業だが、実際のビジネスではカルチャーの違いから協業がうまくいかないケースも多い。こういった課題を解決する仕組みを考え、両社を結びつけるオープンイノベーションを推進しているのがベンチャーキャピタル(VC)のコランダム・イノベーションだ。同社は住友商事の農薬部門出身で、イスラエルに本社を置くジェネリック農薬世界最大手アダマの日本法人トップを務める山本寧氏が設立。日本とイスラエルに拠点を持ち、日本企業に特化した投資活動と事業開発支援活動をミックスさせることで、日本企業、イスラエル企業の両方のニーズをマッチさせ協業関係を作り上げている。同社は現在、第2弾となるVCファンド「COIFⅡ」(1億ドル)を組成中。日本企業がイスラエル企業との協業を進めていくうえで有力な手段になるだろう。
 日本企業は1973年の石油危機以降「アラブボイコット」を恐れ、イスラエル投資を避けてきた歴史がある。ただ今月14日にイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化に合意した。中東は歴史的に大きな転換点を迎えている。日本とイスラエルの協業を深化させる「天の時」かもしれない。

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