このほど文部科学省・経済産業省の「マテリアル革新力強化のための戦略策定に向けた準備会合」が報告書をまとめた。国内外の社会課題解決に貢献するマテリアルの革新力を高めることが日本経済・社会の強靭化に不可欠とし、マテリアルの知を迅速に社会実装できる環境を備えることが重要と強調。研究開発・製造現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速し、強靭性とともに生産性と創造性の向上を訴えた。
 工業素材は、日本の輸出産業において自動車と並び輸出総額の2割強を占める。グローバル市場で過半シェアを占める製品も数多い。それを可能にしているのがマテリアル企業の高度な製造プロセス技術。計測・分析機器、加工、装置企業が持つ高度な技術力と相まって、市場でのプレゼンスと国際交渉力を発揮している。学術領域では質の高い研究者や世界最高水準の研究施設・設備、良質なマテリアルデータの存在が大きな強み。産学官連携が比較的密接で、そこから世界に評価されるリチウムイオン電池や青色LED、ネオジム磁石などが生まれた。
 しかし近年、蓄電池などの組み合わせ型製品でシェアを下げているほか、日本発のマテリアルでも市場を奪われているケースがある。またベンチャービジネスが伸び悩むなど、多様化・短縮化するユーザーニーズに即したイノベーションエコシステムが十分構築できていない。一方、欧米や中国をはじめ各国がマテリアル・イノベーションを後押しする取り組みを加速、競争は厳しさを増している。
 こうした現状分析の下、報告書は目指すべき3つの将来像を示した。産業の観点では「高度な技術力をベースにサプライチェーンで重要なマテリアルの多くを供給する」。研究開発では「世界で最も魅力ある環境を構築し、国内外の優れた研究者が結集する世界的研究・イノベーション拠点がいくつも生まれ、マテリアルを巡る世界の頭脳循環の中心となる」。そして産官学連携では「大学やベンチャーなどから生み出されたマテリアルの卓越知が高確率でスピード感を持って社会実装される」。
 将来像の実現にはマテリアルデータの活用がカギとなる。2030年を見据えて①データを基軸としたマテリアル研究開発のプラットフォーム整備②重要なマテリアル技術・実装領域の戦略的推進③マテリアル・イノベーションエコシステムの構築④マテリアル革新力を支える人材の育成・確保-を課題に挙げた。研究開発のDXを加速し、データ活用のジャパンモデルを世界に先駆けて確立できるか。今後の取り組みが注目される。

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