日本の石油化学産業はいま、10年後、20年後を見据えた産業のモデルチェンジ、バージョンアップを模索している。循環型社会への転換という時代のうねりのなかで、社会と調和し、人類に寄り添う産業に生まれ変わるためのスタートラインに立っている。立ちふさがる課題を突破して、いち早く新たな姿を世界に示す-。その挑戦の道のりに注目したい。
 石油化学産業には、はっきりと逆風が吹いている。海洋プラスチックごみ問題が大きく取り上げられ、プラスチック自体が悪であるかのように、その使用に厳しい目が注がれている。またエネルギーとしても原料としても、化石燃料を大量に消費する産業として、気候変動や資源枯渇を助長する産業と捉えられ始めている。
 現在、世界では欧州を中心に社会・経済システムを循環型のサーキュラー・エコノミーへ転換する動きが加速している。シェアリング、リサイクル、再生可能エネルギー利用などのシステムを社会実装し、大量生産・消費型の社会からシフトしようという動きだ。欧州委員会などがさまざまな規制、ルール作りを進めているほか、ESG投資の観点から企業の事業活動を監視し、コントロールする動きも強まっている。こうした動きは欧州の産業政策、地域戦略と捉えられる一方で、未来を担う若い世代を中心に、世界の人々の価値観に大きな影響を与えている。価値観の変化は、時代そのものを変化させるエネルギーとなりつつある。
 時代の変化を受け、日本の化学企業は、石化産業を循環型の産業へ転換させるイノベーションに取り組み始めている。プラスチックのマテリアルリサイクル技術のほか、触媒やバイオ技術を活用したケミカル・リサイクル技術、非可食バイオマスを原料とする石化原料やバイオプラスチックの生産、リサイクルを前提とする製品設計に適した材料開発などが具体例だ。
 真に循環型の産業に転換するには、こうした個々の企業の取り組みに加え、原料を供給する石油産業、石化製品を使用する川下産業との連携による強固なインフラの構築が必要だ。さらには政府やコンビナートが立地する各自治体などと連携し、国全体のエコシステムとして新たな産業のかたちを確立することが求められる。
 そして何より不可欠といえるのは、次世代のためにイノベーションを起こそうとする石化業界のエネルギーだ。社会に貢献し、支持される新たなバージョンの石化産業。その未来を業界全体で共有し、実現に向けて力強く動き出す時が来た。

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