化学産業をはじめとした製造業のモノづくりでデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいる。IoT(モノのインターネット)機器などのセンサーで収集してビッグデータを解析。プラントや製造装置の制御にフィードバックしたり、デジタルツインを構築して何度もシミュレーションを繰り返して生産を最適化したり、リアルタイムで制御に反映させるなど生産性向上が著しい。AI(人工知能)を用いて不良品の発生やプラントの異常の予兆も検知できるし、ロボットやドローンの利用も加速、今後は5G(第5世代通信)活用も見込まれる。
 当初は大企業でなければ始めることも難しかったが、ICTの発達や安価な機器の登場、初期費用を抑えたサブスクリプション型(定額制)サービスの提供などにより、中小企業でもDXを始めやすくなっている。
 少し前に「AIに仕事を奪われる」とか「10年後、AIによりなくなる仕事」といった記事がネットや雑誌で話題になったが、DXに対し不安を持っている人も少なくない。
 先日、社内で一からDXプロジェクトを立ち上げたメーカーの担当者に話を聞いた。製造工程の一部に自律化した試験ラインを導入する際、現場と対峙する場面も多々あったという。導入によって労働生産性が10倍になれば、オペレーターの数は10分の1で済む。オペレーターは「自分の仕事がなくなる」という危機感を持ったようだ。
 その担当者は何度も何度も話を重ね、オペレーターがもっと創意工夫やさらなる改良・改善に取り組めるよう仕事の価値観を変えていくということを理解させ、プロジェクトを成功に導いた。「現場の納得感が最も重要」と振り返る。DXによって何がどう変わり、どんなリターンが得られるかは、なかなか見えてこない。「DXは未来への大きな投資と割り切ることも大事」とも話していた。
 最後に担当者は「これから創造的な業務や、さまざまな課題を解決する業務にシフトしていくとともに、人の持つ無限の能力を最大限に引き出し若い人の希望を実現するのがDXだ」と熱い思いを込めた。
 DXを始めたばかりの企業は最初にどこから手を付け、何をどうやればいいか分からないこともあるだろう。ただDXにはクラウドやAIなどデジタル技術や安価な機器を使って低コストで何度もシミュレーションしたり、繰り返し試行錯誤できる一面もある。恐れずに果敢に挑戦し、化学をはじめ製造業が、誰でも楽しく希望を持って仕事をできる産業として、さらに発展していくことを望む。

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