あと少しで梅雨が明け、真夏の暑さが到来するが、新型コロナウイルスの猛威が衰える気配はない。感染拡大防止や終息に向け、さまざまな業種の企業が研究開発などに励んでおり、なかでも活発な動きをみせているのが関西企業。各社の取り組みに視線が注がれている。

 薬の町として知られる大阪市中央区の道修町。そこに本拠を構える塩野義製薬は、感染症を重点疾患領域の一つに定める。新型コロナに対し、グループ企業のUMNファーマ(横浜市)が有する技術を活用した遺伝子組み換えたんぱくワクチンと、北海道大学・人獣共通感染症リサーチセンター(札幌市)との共同研究で見いだした化合物を中心とする治療薬の開発に力を注いでいる。ワクチンは年内に、治療薬は2021年3月までに臨床試験を開始したいとしている。塩野義製薬の向かいに本社を置く田辺三菱製薬は、カナダのグループ会社において植物由来のウイルス様粒子(VLP)ワクチンを開発中だ。このほど第1相臨床試験に着手、早期実用化を目指す。田辺三菱では日本でも供給できるよう施策を練っている。

 京都の日本新薬は、変異するコロナウイルスにも有効な核酸医薬を作り出す。まずは21年3月までに候補物質を発見したい考え。このほかアンジェスは、大阪大学と開発したDNAワクチンの第1/2相臨床試験を開始。ロート製薬は、重症肺炎にいたった患者を対象に、他家脂肪組織由来間葉系幹細胞を使った再生医療の企業治験を実施することを表明した。

 製薬以外の活動も衆目を集めている。島津製作所は新型コロナウイルス検出試薬キットの販売に加え、グループ会社がPCR検査事業にも乗り出した。同じく京都に本社を置く堀場製作所は、産業技術総合研究所、大阪大学発ベンチャーのビズジーン(大阪府茨木市)と抗体検査チップシステムの開発を進めている。東洋紡、ユニチカ、クラボウは、繊維技術を生かして作った防護服やアイソレーションガウンといった医療物資を病院などに提供し、医療現場を下支えしている。

 新型コロナが早期に落ち着くとは考えにくいが、もし、そうなれば治療薬やワクチンなどの研究開発は徒労に終わってしまう。だが今後も未知の感染症が流行する可能性はあり、決して無駄になるまい。持続的成長に向けてライフサイエンス、ヘルスケアを重点育成分野に据える関西企業は多い。各社が独自性を発揮しながら、これら事業を拡大し、ひいては関西が健康・医療産業を牽引するエリアに発展することを期待したい。

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