新型コロナウイルスワクチンは欧米ベンチャー企業の研究開発が先行、技術動向を長年つぶさにウオッチし続けた欧米製薬や米国政府が即座に実用化の支援を差し伸べ、1年足らずで実用化に導いた。これにより世界へのワクチン供給を可能にした。日本は世界有数の創薬国と自負してきたが、コロナワクチンでは完全に後塵を拝した。

 これを教訓にワクチンで捲土重来を期すため、政府が先月末に立ち上げたのが「ワクチン開発・生産体制強化関係閣僚会議」だ。ワクチンは国民の健康を守るだけでなく、安全保障の観点からも極めて重要な戦略資材である。長期継続的に取り組む国家戦略と位置付けられ、10年間で5000億円規模の予算が注ぎ込まれる見通しだ。 

 工程表をみると、国産新型コロナワクチンの実用化が喫緊の課題に挙がっている。承認ワクチンが存在する今、後発ワクチンの大規模治験を実施するのは困難な状況。これに替わる検証試験の実施方法について、国際連携組織とコンセンサスを醸成していかなければならない。合意形成に手間取れば国産ワクチンの実現は遠のく。

 次なる新興感染症を見据えて、幅広い視点で体制を強化するのが中長期の課題だ。米国は公的研究機関などが膨大な予算を持ち、最先端技術のベンチャー・研究機関の活動を継続的に支えた。コロナワクチンでは、この枠組みが生きたが、日本にはない。

 今回「先進的研究開発戦略センター」(SCARDA)と呼ぶ新組織を設置し、新規モダリティ(治療手段)の育成に戦略的に予算を配分する計画だ。枠組みができても、きちんと運用できなければ新技術は見つからないし育たない。省庁縦割りを排して目利きできる人材を配置し、機動的に予算を振り向けるか。実効性が問われる。

 日本でも創薬ベンチャーの活躍が目立つが、製薬会社との連携が進み始めたのは最近になってのこと。いくら有望な先端技術であっても、リスクマネーの担い手が存在しなければ開発は進まない。新薬創出を加速するエコシステムを充実させたり、ガラパゴス化しないよう米国など海外との連携加速も欠かせない。

 工程表では、化学企業の多くが参入している製造の強化も掲げた。有事のワクチン供給力を確保するため、バイオ医薬品の製造設備を転用できるデュアルユース設備や、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)製剤の製造設備を整備する。コロナワクチンでも浮上したサプライチェーン問題に踏み込み、製造に必要な培地や培養バッグなどの国産化支援にも乗り出す。

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