2021年は世界の化学品生産が増勢に転じる見通しだ。米国化学工業協会(ACC)や欧州化学工業連盟(CEFIC)などが20年の水準を上回るとの予測を発表している。コロナ禍を背景にした急激な景気後退の影響から脱する見通しだが、相変わらず困難な事業環境であることに変わりない。

 ACCは20年12月に「21年の世界の化学品生産が前年比3・9%増加する」との見通しをまとめた。過去40年で最大の減少を記録した20年から、今年は回復に転じるとの予測だ。米国の21年の生産においても同3・9%増を見込む。消費需要の伸びや輸出市場の安定化などが背景だ。競争力に富むシェールガスやNGL(天然ガス液)が、今後も米国化学産業の優位性を支えるとの将来像も示した。

 一方、CEFICは今年2月に「欧州連合(EU)における21年の化学品生産が前年に比べて3%増加する」との見込みを発表した。20年は前年比1・9%減ったが、製造業全体が8・2%減少したことを考えると、化学産業が景気動向に対して強靱な体質を持つことが証明されたと判断している。

 EUにおける最大の化学品市場で、有力な化学企業が多いドイツでも21年の生産が好転するとみられている。ドイツ化学工業協会(VCI)が今年3月に20年12月の見通しを上方修正し「医薬品を含めて3%伸びる」と発表している。20年第4四半期(10~12月期)は前年同期比4%増だった。化学品のみでみると5・9%増えており、生産の勢いが増してきたことが背景の一つになった。

 もっとも先行きに楽観は禁物だ。CEFICは22年の化学品生産も前年比2%増えると見込んでいるものの、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、長期の経済情勢は極めて不確実であると表明している。

 忘れてならないことはコロナ禍の影響だけではないことだ。ACCがこのほど発表した米国における2月の化学品生産が前月を3・6%下回ったのは、激しい寒波が理由だ。大型の生産拠点が集中するメキシコ湾岸地域における2月の生産は、前月を5・6%下回った。単月では08年8月以降、最も下落幅が大きく、天候の影響が多大なことを改めて思い知らされた。

 米国ではハリケーン、アジアでは台風、インドなどではサイクロンの季節が来る。欧州では近年、熱波が続いており、ライン川の水位が低下して生産に支障が出たことがある。これまで多くの経験を積み重ねてきたことから、天災に対する備えも怠りはないだろうが、さらに万全を期すことが肝要になる。

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