新型コロナウイルスワクチン接種が日本でも進むが、ポストコロナ・アフターコロナへの道筋は、いまだに見えない。ワクチン接種が遅れるわが国にとって、来る時期のスタートダッシュに出遅れる懸念すら残る。

 2021年版「ものづくり白書」は、コロナ感染拡大などでサプライチェーンリスクとなる「不確実性」が高まるなか、わが国製造業の生き残り戦略を示している。ニューノーマル(新常態)は「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」の3つを主軸に展開されるとし、これらの観点から動向分析を行っている。

 回復力を示すレジリエンスでは、サプライチェーン(供給網)強靱化に向けて、供給網全体を俯瞰し、調達先の分散といった多面的なリスク対応を図る必要性を強調した。サプライチェーンが打撃を受けた東日本大震災後も大半の企業が調達先の把握を進展させていないほか、定期的な調達先情報の更新を実施していない企業が半数を超えると指摘した。

 デジタル分野においては、国際競争力向上のカギを握る半導体や蓄電池、川上の各種素材・材料について、サプライチェーン構築・強靱化とともに、経済安全保障を巡る国際動向の把握の必然性も挙げた。デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを深化させるため、効率的かつ効果的な投資を行う必要性も強調した。

 グリーン分野では、各国が2050年までのカーボンニュートラルを表明するなか、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを目指すグローバル企業の動きに留意していく必要性を指摘。また国内外の多くの金融機関では、気候変動対応への取り組み状況を資金供給の判断材料とする「グリーンファイナンス」の手法を取り入れており、効率的な資金調達の機会として捉えるべきとした。

 わが国の製造業はコロナ禍においてニューノーマルに適応すべく、さまざまな取り組みを進めてきた。サプライチェーン寸断に対応した調達先の見直しのほか、テレワークの普及にともなう国内外拠点へのデジタル投資の拡大、さらに地震や豪雨なども含む非常事態に備えた独自の行動計画策定などだ。

 一歩先を考えると、現段階でポストコロナ・アフターコロナを見据えた戦略を明確にする必要がある。カーボンニュートラルやリサイクルを含めたサステナブルな視点、国際競争力に欠かせないデジタル戦略は、わが国の製造業の生き残りに欠かせないテーマだ。白書の指摘は、このための最低限の基準であると捉えていいだろう。

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