2020年代に突入し、否応なしに10年後の30年が視界に入る。しかし米中貿易摩擦は、なお予断を許さないうえ、中東リスクに対する警戒感も強まり、楽観できない環境が続く。業界団体の賀詞交換会で聞かれる声も、東京五輪・パラリンピックイヤーに期待をかけるものの厳しい見方が大半だ。こういう状況下、会社の方向性をどう示していくかが重要になる。
 今年、10年間の長期ビジョンを打ち出し、その実現に向けた第一ステップとなる中期経営計画をスタートさせる化学企業には東レ、積水化学工業、ダイセル、日本曹達などがある。各社が節目となる30年に、どんな絵を描くのか注目される。ほかにも20年度から新中計をスタートさせる企業が相次ぐ。
 近年、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、投資家などから企業にサステナビリティや地球環境保全の取り組みが強く要請され、経営計画に盛り込むことが必須条件となった。ビジネスモデルにおいて最優先する姿勢が求められる。
 また最近、戦略投資枠としてM&A(買収・合併)枠を別に設け、期待分野の技術・市場を取り込む姿勢が鮮明だ。M&Aを積極的に推進する組織を設けるなど各社はスピード感を持った投資判断に備える。増加傾向にある技術ベンチャーやスタートアップへの投資も、有望技術を早期に取り組む手段の一つとして注目される。
 一様に成長領域と捉えられている「環境・エネルギー」「ライフサイエンス」「情報電子」は、多くの企業が引き続き経営戦略上の重点分野として前面に出していく方針だ。加えて「デジタル化」や今年から本格運用が始まる「5G」(第5世代通信)をキーワードに掲げて新材料の開発を加速するとともに、保有する材料の横展開などを進めていく。
 昨年は化学業界でも大型再編が動き出し、今後もM&Aの動向次第で計画見直しが出てきそう。昭和電工は19年度に現中計をスタートさせたが、日立化成の買収を踏まえて年末にも新たな中計を発表する方針だ。また事業環境の厳しさを反映し現中計の数値目標達成は難しいとして、新中計で再チャレンジする企業も多そうだ。
 日本の化学企業は幾多の苦難を乗り越え、成長市場に舵を切りながら汎用品から高機能製品へとシフトを進め、結果、収益体質も強化された。不透明な事業環境下にあっても、全社一丸で目標に向かってさらに突き進まねばならない。立ちすくむことなく、成長に向けた具体的なアクションを盛り込んだ経営戦略を示せるか、注目したい。

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