中国は第14次5カ年計画(~2025年)で、「双循環」戦略の下、経済成長のエンジンを外需から内需へ切り替える方針を打ち出した。コロナ下でいち早く経済活動を再開させた中国は一時、ロックダウンで行き場を失った世界中の化学品を飲み込んだ。内需の底はまだ見えず増産機運は高まるが、景気鈍化傾向が強まるなか、日系化学を含む外資企業は難しい経営判断を迫られている。

 「双循環」には、米中間の緊張が高まるなか、国内製造業の拡大やさらなる内需喚起を通じ、外需主導経済のリスクを低減する狙いがある。化学産業も例外ではない。今年6月時点の中国石油・化学工業連合会の予測によると、25年にベンゼンは20年比約5割増の年2500万トンへ、パラキシレンに至っては倍増の同5000万トンへ、それぞれ国内生産能力が高まる。

 ドイツのBASFやコベストロなど外資も大型投資を継続するが、複数の製造拠点を持つある日系化学企業の現地トップは「いま投資判断を下すのは難しい」とこぼす。米中間の緊張や、党最高指導部人事を決める党大会を来秋に控えることもあるが、さらに先読みを難しくさせているのが、電力不足や当局の工場操業制限、不動産市場の混乱などにともなう景気減速だ。

 中国の7~9月期実質GDP成長率は4・9%に鈍化し事前予測も下回った。不動産大手・恒大集団の経営危機は化学業界にも影響し、塗料やコーティング、その他建築用化学品を扱う企業の懸念は強い。一方、操業率低下でエンプラやリン系難燃剤の需給タイトが続く。また足元の現物価格が高値圏に張り付くメタノールは、先物が10月半ばに1週間で2割以上急落するなど、化学品の値動きは荒い。

 化学品ユーザーの「チャイナ+1」は継続される見通しで、なかでも半導体や医療関連製品の輸出拠点としての色は薄れる可能性がある。しかし中国が化学品市場として、また各種原料・素材の調達地や輸出拠点としてなお有望であることに変わりはない。政府も景気回復に向け、現実的な経済・環境政策を取ろうとしているようだ。

 中国市場の変化は速く、契約にも迅速なコミットメントが求められる。不確実性を克服し化学品市場成長の果実を刈り取るため、企業にも「双循環」戦略が必要だろう。日系化学企業のなかには近年、中国人研究者を多く雇用し、現地発の製品開発を増やそうとする動きもある。現地生産・開発の両輪に、企業やベンチャー、大学などと連携したマーケティングを組み合わせ、中国国内での自律的な成長を実現させたい。

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