新型コロナウイルスの影響によって延期されていた中国の全国人民代表大会(全人代)が開催されている。冷え込んだ経済立て直しのための対応策に注目が集まるが、自国の主張を押し通すような政策は国際社会に軋轢を生み、自身の首を絞めるだけだと肝に銘じるべきだ。
 全人代は2カ月半も延期された。中央政府は本来、新型コロナへの勝利宣言の場としたかったはずだが、感染が再確認されるなど目論み通りにいっていない。政府活動報告は約1万字と従来の半分に縮小し、経済成長率目標も設定しなかった。会期も1週間に短縮するなど異例づくめとなった。

 国内の生産活動は回復傾向にあるものの消費やサービスは停滞し、地方経済は冷え込んでいる。政府は飲食や宿泊業、中小零細企業を対象に税金を免除したり、所得税の猶予で企業の負担を軽減するため2兆5000億元(約37・5兆円)以上を準備。地方対策として特別国際の発行や財政赤字の拡大に2兆元(約30兆円)を充て、地方が公共投資のために発行できる債権枠を3兆7500億元(約56・3兆円)に拡大した。経済対策の総額は8兆2500億元(約120兆円)に上る。

 外交面では「特色ある大国外交が多大な成果を挙げた」と強調したが、その実は国内の批判を避けて求心力を高めるための強権的姿勢が目立ち、各国と軋轢が生じている。感染拡大国へ大量のマスクや医療機器を送る「マスク外交」、豪州など批判的な国々への経済制裁措置、国境沿いでの挑発的な軍事活動などが要因だ。コロナが収束しないなか、今年の国防予算が前年比6・6%も増えたことは米国を含む周辺国を刺激した。

 次世代技術に関しては、中央政府は海外から投資を呼び込んで技術を取り込み、早期の経済回復につなげたい狙いがある。政府活動報告でも第5世代通信(5G)や人工知能(AI)、新エネルギー車など先端技術を国家主導で育成しようとする姿勢も鮮明にした。ただ米国含む海外からは国家主導の不平等競争と批判された産業振興策「中国製造2025」の繰り返しとも指摘されている。

 秋の大統領選を前にして、支持率回復のため中国を批判するトランプ米政権の手法は見苦しいが、自らのやり方を強引に押し通そうとする中国の姿勢も容認できるものではない。

 いま中国に求められているのは感染対策も含めた国際協調の牽引役だ。全人代における自国の主張を貫こうとするような議論は、国際社会からの批判を招き、結果的に中国の不利益になることに気づくべきだ。

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