新型コロナウイルスによる経済影響が長引くなかで、中部経済エリアが、いち早く景況回復の軌道に乗りつつある。先月、名古屋商工会議所内の大ホールで名古屋経済諸団体が大村秀章知事と意見交換会を行った。その場では名古屋商工会議所の山本亜士会頭(名古屋鉄道会長)から、企業支援や次世代産業振興などに関する要望書が手渡された。大村知事は「コロナ対策の予算も上積みしつつ現在、そして未来の産業振興へ重点的に取り組みたい」と応えるとともに「(中部・愛知に)自動車産業の生産回復など明るい話題も出ている」と強調した。

 愛知県、岐阜県、三重県などを管轄する経済産業省の中部経済産業局では、管内の金属部品や機械装置・加工メーカーなどの受注・販売状況について毎月の観測結果を出している。直近の報告をみると「7月ごろから名古屋港からの中国向け輸出を中心に反転増加の動きが顕著になってきた」としている。とくに同国の自動車産業向け各種部品や完成車の輸出、関連機械装置の荷動きが目に見えて増加してきているそうだ。

 一部の地元経済紙などで大きく報道された通り、トヨタ自動車は、今年4~6月にコロナの影響で生産調整を行った愛知県内の主力工場、および国内の各自動車生産工場の回復・拡大を急ピッチで進めている。同社は10、11、12の各月について、これら工場で昨年同月を上回る生産計画を打ち出している。愛知県内の、ある樹脂加工メーカーの社長は「県内の自動車に直接かかわる部材・部品を手がけるメーカーは、すでに昨年以上の繁忙感にある」と、喜びの表情を隠さない。

 国内自動車メーカーの2020年4~6月期決算では、多くが最終赤字を計上したなか、トヨタとスズキは最終黒字を確保した。これをみてもトヨタの回復が、中部経済圏全体の大きなドライバーとなっているのは間違いないところだ。

 愛知県の産業政策幹部の一人も「完成車や部品などを含め、トヨタの回復が中部経済の好転に寄与しているのは事実」と打ち明ける。

 トヨタ自身、足元の自動車生産の回復に力を注ぐ一方で「トヨタウォレット」などの電子マネー普及プロジェクトや水素燃料電池、デンソーと共同の半導体など、自動車以外の事業について、まずは地元の中部・愛知で実証実験などを行うことを常としている。ただ、それは「地元に胡坐をかく」といった意味では毛頭ない。トヨタが直接・間接に中部経済圏へ与える影響の大きさには、改めて特筆すべきものがある。

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