経済産業省が「事業再編実務指針」を策定した。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう産業構造の大きな変化が予想されるなか、事業ポートフォリオの見直しが一層重要視されている。7月にまとまった政府の成長戦略実行計画でも取り上げられており、大企業については、企業価値向上のために、事業再編を積極的に行っていくことが重要だ。
 経産省は、経営環境が急激に変化するなか、企業が持続的な成長を実現していくうえでは、経営資源をコア事業の強化や成長事業・新規事業への投資に集中させることが必要で、このような経営資源の移行を円滑に進めるためには、事業ポートフォリオの見直しと、これに応じた事業再編の実行が急務となっていると指摘。その一方で、日本企業において事業ポートフォリオ検討の必要性について認識が高まりつつあるものの、合併・買収と比較すると、事業の切り出しに対しては消極的な企業も多く、必ずしも十分に行われていない状況にある、と危機感を募らせている。
 そこで目標とするべきは「両利き経営」。新規事業の実験と行動と、既存事業の効率化と漸進型改善の両者を同時に行うこととされている。具体的には、スタートアップ企業のM&A(合併・買収)などによって新しい世界を開く一方で、事業再編によって貴重な経営資源を、コア事業の強化や将来への成長投資に集中させる必要がある。
 事業再編実務指針では、経営陣における適切なインセンティブ、取締役会による監督機能の発揮、投資家とのエンゲージメントへの対応、事業評価の仕組みの構築と開示の在り方を整理したほか、事業の切り出しを円滑に実行するための実務上の工夫を、ベストプラクティスとして示した。
 ポートフォリオの最適化を図る際の出発点となるのが事業ごとの評価分析。その際、最も重要な視点は、その事業にとって自社が「ベストオーナー」かどうかということだという。自社がベストオーナーではない事業を抱えていては成長戦略の実現は難しいため、最終的に従業員の利益にはならない。
 「コロナショックでリスク分散という事業多角化の意義を見直した」という声には、企業の強靭化は、持続可能性と付加価値創出力を高め、従業員を含むすべてのステークホルダーに配分される原資を拡大することにほかならないと釘を刺した。
 新型コロナウイルスの感染拡大により、日本企業は極めて厳しい状況に置かれている。より高い成長に向け、スピンオフを通じた活性化に期待したい。

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