世界経済フォーラムは来年の特別年次総会を、5月にシンガポールで「対面」方式によって行うと発表した。新型コロナウイルスの世界的流行が始まって以来初めて、ビジネス、政府、市民社会のリーダーが直接会う場となるという。さまざまな国際会議がオンライン開催となるなか、通称「ダボス会議」と呼ばれる由縁である開催地を変えてまで対面方式にこだわった。2022年の年次総会は従来通りダボスでの開催を予定していると宣言しており、そこに取り戻すべき大事なものがあるとのメッセージが伝わってくる。われわれは今、対面の価値を噛み締めている。

 ダボスで会議が開かれるはずだった来年1月25日からはバーチャルイベントを催す。各国首脳、最高経営責任者、市民社会のリーダー、グローバルメディア、若者のリーダーが参加することになっている。しかし、それでは足りないものがある。世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長はシンガポールで年次総会を開催する目的を「信頼を再構築し、20年に顕在化した『断層』に対処するためには官民の協力が、これまで以上に必要とされる」と述べている。信頼関係を構くには、やはり対面でのやりとりが最も有効。ましてや今、世界は、これまでになく分断されている。

 コミュニケーションをすべて対面に戻す必要はない。茨城大学の調査によると、オンライン授業に全面的に移行した今年度は、対面で行っていた前年よりも学生の理解度が高まった。ビデオ会議システムが対面よりも有効に働く場面はある。

 コロラド大学の研究では、コンピューターを介在したコミュニケーションを利用した場合、対面に比べて作業中の肯定的な感情が弱く、チームに対する情緒的なコミットメントのレベルも低かった。これは重要な指摘だ。その一方で、仕事の成果に明らかな悪影響を与えるのは、コンピューターを介在したコミュニケーションの割合が90%を超えた時といわれる。しかもこれは10年以上前の研究成果で、当時は電子メールでのやりとりが主流。現在はビデオ会議システムの普及によって対面に近いコミュニケーションが可能になっており、この割合は、さらに高くなっているはず。

 今後、さらなる技術の進展で大抵のことはバーチャルなコミュニケーションで対応可能になるだろう。移動にかかるエネルギーを削減できたり、都市への人口集中の緩和、余暇の時間の増加など利点は多い。しかし人の連帯が求められる時、それでは代替できないものがある。その見極めが重要だ。

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