昨年、LiB(リチウムイオン2次電池)の発明・実用化で社会の発展に貢献した旭化成の吉野彰名誉フェローがノーベル化学賞を受賞し、電池への注目が一気に高まった。1800年代にイタリア人のボルタが電池を発明して以来、さまざまなタイプの電池が開発されており、今では社会や人々の暮らしに不可欠なものとなっている。
 LiBはソニーが1991年に世界で初めて商品化。以来、電子機器の小型化、高性能化を支えてきた。近年、世界各国で環境規制が強化されるなか、自動車の電動化が加速、各社がLiB搭載のxEV(電動車)を開発・投入している。経済産業省の統計をみると、日本におけるLiBの販売は、主に車載用が牽引し2018年まで順調に増えてきた。19年は米国向け輸出の大幅な減少を受け、全体で4098億円となった。原材料や製造装置などを含めた電池産業全体で考えれば一つの大きな市場を形成している。
 一方で現状は、今年に入って以降、新型コロナウイルス感染症の拡大が猛威を振るい、世界の自動車販売が急速に減少している。車載用の成長に依存してきた最近の傾向を考えると、LiBの需要も当面は厳しい状況が続く見通しだ。
 ただ新車の開発期間は、モデルベース開発などの導入によって短くなっているとはいえ3~4年かかる。現在、自動車用部品・機器メーカーは2~3年後に販売される車種の商談を行っているが、引き合いは減ることなく現在も多いという。
 日本の電池産業は、民生用で成長・拡大し、かつては世界をリードしていたが、その後、韓国・中国勢に追い抜かれた。一方、車載用電池は、今や世界トップのCATL(寧徳時代新能源科技)や、BYD(比亜迪)ら中国勢に加え、サムスンSDIやLG化学など韓国勢も積極的に投資を拡大、スウェーデンのノースボルトをはじめ欧米勢の新規参入も活発だ。
 CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)という一大転換期に立つ自動車メーカー各社は、将来を見越して電池メーカーと提携、車載用電池を取り合う状況になっている。日本の電池メーカーも健闘しているが、なお拡大の余地は大きく、電池材料を供給する素材産業にも大きなチャンスがある。ある電池メーカーの社長は「日本のモノづくりで、もう一度、世界に勝負を挑まねばならない。化学分野は、まだまだ競争力がある」と話す。電池メーカーと素材メーカーが協力して日本の電池産業を復活し、再び世界をリードするステージに進むことを期待したい。

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