企業価値を高めるための取り組みは多様だ。収益性の向上を図るのも、その一つ。多くの企業が投資やM&A(買収・合併)、財務状況の改善など多面的な施策によって実現を目指している。SDGs(持続可能な開発目標)に立脚した経営も、今の世界情勢を考えると、ますます大切になっている。

 このところ欧米の化学企業の間で目立っているのがM&Aである。デュポンのモビリティー&マテリアルズ(M&M)事業の大半を買収することで合意したセラニーズは、その一社。買収額は110億ドル(約1兆3800億円)。2012年にダイセルおよびポリプラスチックスと樹脂事業に関する包括的契約を結んだ後、20年にポリプラスチックスの持株を売却。アジア地域においてエンジニアリングプラスチックを軸に据えたエンジニアード・マテリアルズ(EM)事業の新たな基盤づくりを始めたセラニーズにとって、画期となる買収に位置づけられる。

 セラニーズがM&Aによって主力事業を強化し、収益をさらに高めることで企業価値を高めることを目指すのに対し、企業の持つ価値を最大限に引き出す手法として会社分割を選んだのがソルベイだ。基礎化学品とスペシャリティの2社に分割し、いずれも上場する計画。社名は今後決定し、23年下期の具体化を目指している。

 21年実績ベースでみると、ソーダ灰や過酸化水素、シリカ、フェノールと誘導品の基礎化学品を軸にする会社の売上高は約41億ユーロ(約5600億円)。高機能性樹脂やコンポジット、界面活性剤などのスペシャリティ会社の方は60億ユーロ(約8200億円)。

 会社分割に関するオンライン会見において、イルハム・カドリCEO(最高経営責任者)は「この計画を推進することにより、長期的に株主にとって魅力的な価値を創造できると確信している」と話した。カドリCEOは、さらに「社員がそれぞれの会社で成功と成長をする機会を創出することを期待しており、両社が同じレベルの顧客志向と価値創造にまい進することを確信している」と強調した。

 ソルベイは、1863年にアーネスト・ソルベイ氏と兄弟のアルフレッドを含む少数の親族が創業した。株式を上場する会社であるが、今もソルベイ家が最大の株主として経営陣を支えている。そうした会社が分割の道を選択した覚悟を重く受け止めたい。両社が企業価値を着実に高めることに加え、カドリCEOが語ったように社員の成功と成長を実現し、判断が正しかったことを証明することを期待して止まない。

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