国土交通省の2021年度予算の概算要求額は一般会計が5兆9617億円(前年度当初予算比1%増)となった。災害対策や新型コロナウイルス対策などの予算が盛り込まれ、どれも喫緊の課題となっている。
 このうち「インフラ・物流分野等のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」は183億円(同3・3倍)プラスアルファ。公共工事の現場を非接触・リモート型の働き方に転換するなど、新型コロナなどの感染症リスクに対し、強靱な経済構造を構築することが急がれている。国土交通省では7月に「インフラ分野のDX推進本部」を設置しており、「行動のDX」「知識・経験のDX」「モノのDX」の3つの柱で取り組む構えだ。
 例えば、従来は建設現場で行っていた施工状況や材料の確認を、映像と音声データを活用して机上で行うなど、データとデジタル技術の活用を進める。公共事業の円滑な実施や感染リスクの低減などが実現し、建設業で「新しい働き方」への転換が図られる。また担い手不足が深刻な物流業界では、物流生産性の向上という喫緊の課題に加えて、「新しい生活様式」に応えるため接触機会の最小化に取り組むことが求められる。
 国交省では物流・商流データ基盤の構築やトラック隊列走行など、最新技術を活用した物流効率化を推進してきた。今後は物流施設におけるデジタル化・自動化やドローンの活用によるラストワンマイル配送の機械化など、物流分野のDXを一層強力に推進していく考えだ。
 一方「海運・造船の国際競争力強化や海洋開発等の推進」は159億円(同15%増)プラスアルファとなった。海事産業は地域の経済と雇用を支えるとともに、国民生活と経済活動の基盤として重要な役割を担っている。ただ陸上分野に遅れを取る船員の働き方改革、厳しい市況変化に対応できない脆弱な事業基盤といった構造的な課題に直面している。そのなかで新型コロナの世界的な流行の影響を受け、海運業では荷動き量や観光需要の減少、担い手では船員の労働環境改善、船舶産業ではサプライチェーンの毀損や新規受注の減少といった新たな課題が顕在化。これまで以上に危機的な状況に陥っている。
 概算要求では、こうした課題の克服のため、担い手・海運・造船の各分野で必要な措置を講じ、相互に好循環を生み出すことで海事産業の発展と安定的な海上輸送の確保を実現していくとしている。まだ概算要求ではあるが国民の血税からなる予算であり、目標の実現に向けて力を尽くしてほしい。

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