ダイセルが大学との連携を軸に幅広い領域の研究開発に挑戦している。大阪大学、金沢大学に続き、兵庫県立大学・播磨理学キャンパス(兵庫県赤穂郡)内に共同研究講座「摩擦界面現象共同研究講座」を設置、先ごろ開講式を開催した。摩擦界面で起こる現象を解明し新素材開発に必要な要素を研究する。小河義美社長は「電気自動車(EV)などの自動車や、電気・電子といった最先端分野への応用を目指していく」と話す。

 ダイセルと兵庫県立大は2017年8月に包括連携協定を締結。共同研究や学術交流など多方面にわたり産学連携を進めており、その一環として20年4月1日付で共同研究講座を設置した。同講座は樹脂を扱う際の必須の課題である「熱」への対応を摩擦の側面から解明するのが目的。摩擦現象は非常に複雑で「そのコントロールは古代から人類にとって大きな課題」(小河社長)となっている。これまでに界面での現象に関する研究例が限られるなか、同講座では摩擦界面での現象をミクロ視点(原子・分子レベル)とマクロ視点(材料自体)の双方でとらえるとともに、熱の観点から樹脂を摩擦部材として用いる際に求められる特性を検証する。

 両者は同講座設置に合わせ、金属やエンジニアリングプラスチックなどの摩擦力を測定できる装置を共同で開発した。同装置は実際の摩擦状態を映像で観察できるほか、表面接触部分の温度などを同時に測定できるのが特徴。20年9月から同装置を利用した実験を行っている。さらに21年には、真空中・大気制御下で摩擦力が測定できる装置の導入を予定している。

 同社は長期ビジョン「DAICEL VISION4・0」において豊富な汎用樹脂・エンプラのさらなる拡充に加え、サステナブルな社会の実現に貢献するため「バイオマスプロダクトツリーの構築」を掲げ、樹脂を含む機能材料のラインアップ充実に取り組んでいる。兵庫県立大との共同講座では約3年間のロングスパンで研究を行う予定。有機・無機複合材料など軽量高性能な新素材を開発・提供していくことで、長期ビジョンの実現につなげる。

 同社は新サイトの開設や外部との連携など、以前から高い次元でオープンイノベーションに取り組んできた。全国各地で共同研究講座という安定した研究基盤が構築されることで研究のスピードアップ、効率的な展開が期待される。さまざまな社会的課題に対応するイノベーションの新たな手法として、企業・大学の共同研究講座が注目されるなか、その成果を着実につかみ取ってもらいたい。

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