菅義偉首相は先月26日の所信表明演説で、温暖化ガス(GHG)排出量を2050年に実質ゼロにする目標を宣言した。化石資源を大量に使う化学業界にとって大きな試練といえる。一方で目標を達成するにはクリーンエネルギーのコスト低減や、半導体の大幅な省エネといった革新的な技術の開発が必要となる。いずれも化学がブレークスルーに貢献できる領域といえ、大きなチャンスと捉えることができよう。

 日本はもともと、50年のGHG排出量を13年比で8割削減する目標を打ち出していたが、技術のブレークスルーがなければ実現不可能とされてきた。今般の菅首相の実質ゼロ宣言は、8割削減でさえ実現可能な具体策が示されないなかで目標をさらに2割引き上げるものであり、道筋がまったくみえないとの批判は免れない。

 化学などエネルギーを大量に使用する産業では、そのコストが競争力を左右する。GHGを削減しながら市場で競争するには、エネルギー源を現状並みの安価なクリーンエネルギー系に転換する必要があるが、そのようなエネルギーは現状は存在しない。したがって、エネルギー大量消費型の産業は退場を宣告されたも同然といえる。

 一方で国際社会においては、人類が安全に生存できる気候変動の許容範囲を保つには、50年頃までに世界全体でのGHG排出量を実質ゼロにする必要があることがコンセンサスとなっている。国際社会の一員として日本がGHGの大幅削減に取り組むのは当然の責務といえる。

 GHG排出ゼロを実現するエネルギーとしては、太陽光、風力など再生可能エネルギーのほか、それらを利用して産出する水素に期待が集まっている。菅首相は今月2日、水素はクリーンエネルギーの重要なカギとしたうえで、革新的なイノベーションを通じ、安価で大量の水素供給を可能とするサプライチェーンの構築が大事であると指摘した。

 また大幅な省エネ技術の開発も極めて重要だ。例えば社会のデジタル化によって情報処理量は増大の一途をたどっており、消費電力の少ないデバイスの開発が急務となっている。自動車や航空機の軽量化、建物などの断熱性向上も重要な省エネ対策である。

 安価・大量に水素の供給を可能とする技術も、半導体、自動車、建物などの省エネ技術も、いずれも化学が貢献できる分野であり、化学企業にとっては大きなチャンスだ。まずは個々の企業が技術のブレークスルーを起こし、やがて国や社会を動かす原動力となるべきだ。

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