世界の健康課題に対して日本はリーダーシップをどう発揮していくべきか。そんな問題意識の下、政府が「グローバルヘルス戦略」の議論を進めている。12月には中間とりまとめを行い、来年6月までに策定する。コロナ禍によって明らかになったさまざまな課題も踏まえつつ、健康危機への予防・準備・対応の要素を入れた「強靱なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」を、とるべき対応として掲げている。「企業の国際展開・国際機関における調達の支援」も論点の一つで、製薬・医療機器はもちろん、幅広い関連技術・製品・サービスを有する化学・素材産業にとっても活躍する余地は大いにありそうだ。

 世界保健機関(WHO)によればUHCとは「すべての人々が基礎的な保健医療サービスを必要な時に負担可能な費用で享受できる状態」を指す。2012年の国連総会ではUHCに焦点を当てた決議を採択。日本も00年以降、開催国となった主要国首脳会議(サミット)でUHCを取り上げるなど、30年達成の国際目標の実現に向け、さまざまな後押しを行っている。

 UHCを実現するうえで必要となる国際的なシステムのあり方、日本が今後行う保健分野での政府開発援助(ODA)の方向性などグローバルヘルス戦略策定に向けた論点は多岐にわたるが、日本企業の持つ力をいかに引き出し、国際社会に貢献すべきかも、その一つだ。例えば、関連技術・製品・サービスを擁する企業の国際展開をどう支援していくのか、WHOなどの認定を受け、海外でも普及しやすくするには何が求められるかなどがあり、企業が果たすべき役割も大きい。

 グローバルヘルスへの貢献と聞けば、製薬企業や医療機器メーカーの専売特許と思いがちだが、その間口は広い。識者からも「産業に応じた入り口がある」との指摘は出ており当然、化学・素材産業もそこに入ってくる。医療・介護そのものだけでなく、予防や健康増進を含めたヘルスケアサービス、栄養や衛生など健康な生活を支えるサービスなどにも目を向ければ多彩な切り口があるはずだ。

 振り返れば、住友化学の蚊よけネット「オリセットネット」、あるいはサラヤの消毒剤普及プロジェクトなど、日本の化学・素材産業が世界が抱える健康課題に対して実績を上げてきた例は決して少なくない。政府のグローバルヘルス戦略策定を機に、改めて世界の健康課題に向き合い、何ができるのかを論ずるべきだ。各社が企業の経営指標や行動指針に掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成にもつながってくる。

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