第208回通常国会が17日に招集された。岸田文雄首相は施政方針演説で「持続可能な経済社会の実現に向け歴史的スケールでの『経済社会変革』の動きが始まっている」とし「成長と分配の好循環による『新しい資本主義』によって世界の動きを主導する」と語った。

 首相は「デジタル」「気候変動」「経済安全保障」「科学技術・イノベーション」といった成長戦略によって社会課題を解決し、日本の弱みとされてきた分野に官民の投資を集め、成長エンジンへ転換を図るとした。分配や格差の問題にも正面から向き合って「成長と分配の両面から経済を動かし、持続可能な経済を作り上げる」と力を込めた。

 二酸化炭素(CO2)の2030年までの13年比46%削減、50年カーボンニュートラル(炭素中立)に向けて「この分野への投資を早急に少なくとも倍増させる」とし、経済社会変革の道筋として「クリーンエネルギー戦略」を取りまとめる方針を示した。

 50年のカーボンニュートラルという時間軸が示されたことで、日本の化学産業にとっても22年は大きな岐路になろう。昨年末には三菱ケミカルホールディングスが石油化学事業分離の方針を表明し、業界再編の機運もにわかに高まる。生活と密接に関わる石化産業がどうあるべきか。まさに首相の言う「官と民が全体像を共有し協働することで、国民一人ひとりが豊かで生き生きと暮らせる社会を作る」観点が重要だ。

 CO2排出削減、カーボンニュートラル実現には設備やイノベーションを起こす研究開発に多額を要する。こうした外部不経済に対応する社会的コストの負担はどうあるべきか、その結果、モノの価格はどの程度上昇するのか。こうした視点も含め、環境に敏感とされる若い世代を巻き込んだ議論の醸成が必要になる。国民一人ひとりがカーボンニュートラルを「自分ごと」として考える価値観を育む仕掛けづくりも大事になる。

 首相は、カーボンニュートラルの重要な視点として「とくにアジアの脱炭素化に貢献し、技術標準や国際的なインフラ整備をアジア各国とともに主導する」と述べ、各国と連携し「アジア・ゼロエミッション共同体」を目指すことも表明した。

 国内化学各社もCCU(CO2分離・回収・利用)、グリーン水素、プラスチックのケミカルリサイクルといった技術の開発に力を入れる。一連の技術をパッケージ化すれば輸出産業に育つ可能性もある。官民の投資を集め、成長のエンジンに転換する好循環が化学分野にも起こることを期待したい。

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