新型コロナウイルスの感染終息後、化学品を含む製造業のサプライチェーンに変化が生じるとみられている。中国リスク軽減などが理由だが、医薬・医療品など一部を除き、都市封鎖で寸断されたチェーンの復旧が優先され、短期では大きな変化はないだろう。しかし米中の対立や、経済再建過程で自国企業を優先せざるを得ない新興国の通商政策変更にともない、トレードフローが変化し化学産業も対応を迫られる可能性がある。

 世界銀行によると、化学品と合成樹脂・ゴムの世界全体の輸出量は計3兆ドル(322兆円、2018年実績)に上る。言うまでもなく化学品の最大市場は中国であり、輸出量は中国が1位で米国が2位(19年)。両国の存在感は極めて大きい。

 しかし米中摩擦を背景に、米国の19年化学品輸出額は前年比2・5%減少。また同年12月の中国からの基礎化学品輸入量は前年同月比で半減した。両国間の全体貿易量も減少。アジア太平洋地域に生産拠点を置く化学品メーカーの収益にも影響を及ぼした。ペトロナス(マレーシア)やPTTグローバルケミカル(タイ)は、貿易摩擦を20年業績の不安材料として挙げる。

 繊維業においてPET樹脂重合から縫製にいたる商流が整備されつつあるベトナム、東南アジア最大のガラス生産国となったマレーシア、またタイなど東南アジア諸国では、中国からの生産移転が続くことは確実だ。しかし中国をサプライチェーンから排除するのは現実的とは言えない。安定した産業インフラや物流網など、生産国としての優位性は、なお高い。

 ただ化学品取引では今後、中国の輸入量の減少が確実視される。沿岸部では今年、民間2社が製油所から石油化学まで統合した巨大コンビナートを立ち上げる。米中摩擦で、中国当局は自給率向上政策への確信をさらに強めただろう。シンガポールに拠点を置く日系企業も「汎用樹脂や合繊原料は中国以外に振り向けざるを得ない」と話す。

 今後、化学品需要が高まるのはインドやアフリカを含む東南アジア以西だ。これを踏まえ東南アジアに生産拠点を構える日本企業は多い。しかしインドでは今、自国産業保護のため輸入化学品に対し、15%の追加関税を時限適用することが検討されている。全体の約15%を占める中国品の流入を阻止する狙いがあるようだが、適用されれば日本企業への影響も大きい。

 感染終息後、製造サプライチェーンに変化がなくとも化学品の取引地図は変わる。米中また印中間のモノの流れの変化、生産・消費の地域ブロック化などに十分な備えを講じるべきだ。

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