AI(人工知能)関連のビジネスで化学品商社の動きが活発だ。商社は基本的に開発機能を持たないが、AIの知見を持つベンチャーを含む外部企業との連携やAIに造詣が深い人材のスカウトのほか、開発・製造機能を持つグループ企業との連携によるAIを活用した化学品の開発など、さまざまなかたちで活動が具体化しつつある。
 富士キメラ総研の2019年の調査によると、国内のAIビジネス市場は30年度に2兆1286億円と、17年度の5・4倍に達すると予測される。業種別では30年度に金融業が4529億円、プロセス製造業が1980億円、組み立て製造業が2616億円、医療/介護業が1093億円と見込んでいる。現状では実証実験が中心だが、金融業や製造業などでAIの本格的な導入が進んで市場が拡大。今後は金融業や製造業だけではなく、さまざまな業種で導入が進むと予想している。
 化学品商社の、ここ1年ほどのAIに関わる動きをみてみよう。長瀬産業はIBMと組み、AIや高速データ処理を活用して新規材料や代替材料を探索するマテリアルズ・インフォマティクスのプラットフォームの開発に力を注いでいる。「コグニティブ・アプローチ」「アナリティクス・アプローチ」の2つの手法を採用し、新たな化学品などを短期間で発見可能にするという。プラットフォームはグループのナガセケムテックスと林原で評価し、今年から日本の化学品・バイオ素材メーカーに提供する予定だ。
 また三谷産業は今年、AIの研究開発成果の社会実装事業を手がけるネクストリーマー(東京都板橋区)に出資した。北陸地区の企業が持つさまざまな課題に対し、ネクストリーマーのAI技術を生かしたソリューションを創出するべく協業する。このソリューションの特徴は、中小企業でも取り組みやすい価格帯でスピーディーに提供できること。三谷産業などのパートナー企業と連携し、地域の課題解決に向けたAIソリューションの活用促進、地方の企業・地域の活性化を図る。
 このほか北村化学産業では、AIを用いて取引先工場の問題を解決する「AI・IoTプロジェクト」を立ち上げ、次世代ビジネスへの育成を目指す。
 各化学品商社のAIに取り組む姿勢はさまざまだが、その活動が少子高齢化や、それにともなう労働人口の不足など、日本が抱える課題の解決につながる重要なツールとなるのは間違いない。各社のAIビジネスへのチャレンジが今後の日本の働きやすさ、暮らしやすさに貢献することを望んでやまない。

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