新型コロナウイルスの感染拡大を受け、化学各社は「社員の在宅勤務に向けた体制の整備」「製造現場の操業確保に向けた対策」「売り上げ減少に備えた手元資金の確保」といった対応に追われてきた。一方で、今後は世界的な経済減速と需要減少が素材産業の生産活動を直撃するとみられている。とくに機動的な生産調整が難しいバルク型製品の稼働調整が大きな課題として浮上しそうだ。すでに鉄鋼業界では工場休止や社員の一時帰休を実施するなどの動きがあり、化学業界にも警戒感が広がってきた。

 政府が7都府県に緊急事態宣言を発令したことで、国内の経済活動は一段と低下している。宣言発令を受け、化学各社は対応策についてホームページなどで公表しており、目下のところ生産拠点の操業に大きな支障はないようだ。しかし自動車など川下産業では内外の需要急減の影響から工場停止などの動きが広がっている。今後、こうした影響が化学産業の操業に影響を与えるのは避けられない情勢となっている。

 鉄鋼業界では、すでに最大手の日本製鉄や国内2位のJFEスチールが屋台骨である高炉の休止計画を次々発表している。日本製鉄は従業員の3割に相当する3万人を対象に、月2日程度の一時帰休も実施する。期間中の給与減額もある一時帰休の実施はリーマン・ショック以来11年振りのことになる。鉄鋼業界の相次ぐ減産は、自動車大手の生産停止などで需要が急速に減少しているためだ。合成樹脂などの化学製品も自動車向けが主力用途の一つであり、化学業界にも早晩波及することは間違いない。

 合成樹脂などを生産する石油化学系のコンビナートは、各プラントが原料と製品の関係で有機的につながっており、24時間連続運転が前提となっている。このため機動的な生産調整が難しいほか、生産調整できたとしても、稼働率が7割以下になると赤字操業に陥るといった問題がある。個々の企業がそれぞれ減産を実施すれば、全体で被る不利益は極めて大きくなる。

 新型コロナウイルスの世界的な蔓延は、さまざまな分野において規模・期間いずれにおいても想定を超えた需要減少を引き起こす懸念がある。当面の自己防衛対策を完了したかにみえる化学各社も、近年では経験したことのない新たな対応を迫られることを想定しておくべきだ。また、一社では難しい大幅な生産調整も、複数の企業が連携して実施することで調整できる可能性がある。緊急時こそ各社が連帯感をもって打開策を講じなくてはならない。

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