新年2022年がスタートした。力強い経済回復に向けて、世界でポストコロナを見据えた成長政策の実行を期待する声が高まっている。しかしオミクロン変異株の拡大、エネルギーや原材料をはじめとする物価上昇と高まるインフレ、各地での紛争の火種など、期待を裏切る要素はふんだんにある。不確実な時代のなか、カーボンニュートラル(CN)という世界共通の目標達成に向けた準備も着々と進めなければならない。CNをはじめ社会課題の解決者として化学業界に対する期待は大きい。視界不良の時こそ、自ら依って立つ座標軸を明確にし、向かうべき将来への海図にそってアンテナを張り、情報を集め、時には軌道修正しながらも航海を続ける必要がある。立ちすくんでいる時間はない。

 21年は新型コロナウイルスの感染拡大が一時落ち着きをみせる一方で、未知なる変異株が登場した。オミクロン株の感染力や毒性は今のところ未知数だが、ベストのシナリオは「毒性の弱さが明らかとなり、世界経済が本格的な回復に進む」ケースだ。ただ、その場合でも、昨年から続くエネルギーや原材料の価格高止まり、物流の目詰まり、労働力不足などがリスクとなり得るだろう。

 オミクロン株が脅威となれば、再び人の移動は停滞し、エネルギー価格に大きく影響が及ぶ。ただロシアとウクライナの緊張によって欧州の天然ガス価格が急騰しているように、エネルギー価格の変動は地政学的な要因も大きい。半導体の世界供給基地となっている台湾の情勢も予断を許さない。国内経済安定とゼロ感染の両立を目指す中国がどう動くのか、11月の中間選挙が米バイデン政権に試練となるのか、国際政治の動向から目が離せない状況が続く。

 日本の化学産業は昨年、新型コロナからの回復もあって過去最高に迫る水準の好業績を挙げた。半導体材料やディスプレイ材料といったエレクトロニクス関連、医薬関連や医療機器といったライフサイエンス関連を中心に、各社が力を注いできた事業が柱に育ちつつある。しかし好業績を支えたもう一つの要素は石油化学品の市況高騰であり、今年は、この恩恵はなくなると覚悟した方がいい。

 化学産業にはこの先、大きな試練が待ち受けている。温室効果ガスを多く排出する産業として、どうCNを実現するのか。翻って言えば、国や世界のCN達成に貢献する大きなチャンスである。いまだそのイノベーションは見えないが、立ちすくむことなく、革新を目指して前進するほかない。今年は覚悟と実行が問われる年となろう。

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