化粧品のニーズ対応は複雑で困難なところがある。消費者ニーズとして、少なくとも日本では「肌の状態を良くする」「見た目を美しくする」といった「機能」を求める傾向が根強い。ただ、ここに社会的なニーズ、例えばサステナビリティーのような要素が加わると「メーカーは単純に機能を追求していればよいのか」という話になる。

 化粧品の原料を石油由来から天然由来に切り替える際、機能とトレードオフの関係になるケースが多々ある。愛用品より性能が劣っても「環境のため」と消費者が理解・納得し購入する-という機運を高められるかどうか。

 原料メーカーは天然由来製品の開発、提案を活発化している。化粧品OEMでも、天然由来原料を中心とした処方ニーズが増え始めているようだ。しかし消費者の機能志向が大きく変わらない限り、化粧品メーカーが天然由来原料主体の製品に舵を切るのはリスクがある。そう「売れるかどうか分からない」。

 海外、とくに欧州では「環境に配慮している化粧品かどうか」を基準に購入する消費者が増えているという。海洋プラスチックごみ問題のように、日々接する自然環境の危機に関するニュースと、消費行動を結びつけて考える傾向が強いのかもしれない。もちろん西洋人と日本人の肌質や化粧習慣、気候風土などの違いが、そうした温度差にも関係しているのだろうが-。

 ビジネス面でみると、現地のニーズに応じた製品・サービスを提供する「ローカライズ」は、むしろ正義であり目標だった。しかし、それは消費者視点の話。環境はグローバルな問題である。地域軸と世界軸のポジティブな交差領域を見いだす必要がある。

 環境に配慮した化粧品は、以前より目に付くようになった。日系化粧品大手も、M&Aなどを通じてブランド育成に動き始めている。天然由来で性能も互角あるいは上回る素材も増えるだろう。ただし画期的な素材は高コスト。ブランドオーナーの利益を圧迫し、商品価格上昇にともなう消費者負担が普及の壁になることが十分考えられる。

 これを打開するには規制、補助金などの外的要素もあるが、消費者への啓蒙活動が第一になってくる。しかし環境整備は時間を要し、都合よく実現できるものでもない。

 外出自粛で販売が落ち込んでいる化粧品業界。苦境を脱するべくeコマースの拡大、オンライン相談などに奮戦している。環境対応は、かねて言われてきた課題だ。ここで強く求めるのは酷かもしれないが、避けることはできない。ビジネス上、改めて意識しておく必要があろう。

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