化粧品の処方設計にもサステナブルの要請が押し寄せている。世界最大の化粧品メーカーである仏ロレアルは、処方原料の95%を天然・バイオ由来原料に転換する目標にコミットしている。石油由来原料は天然原料に比べて一般的にリーズナブル。機能も含めて代替は難易度が高いが、経営の根幹に据え、妥協しない姿勢を見せている。

 一方、日本のメーカーでは容器回収プロジェクトへの参画などが先行する。製品処方における環境対応では「自然派」「ナチュラル」をコンセプトとする特定ブランドの展開はあるものの、局所的な取り組みにとどまっている。

 日系メーカーの研究、とくに皮膚科学に関する研究は世界の中で最先端を行く。そこには「消費者に美を届ける」という強く真摯な動機が存在するが、この方向性とサステナブルは必ずしも常に一致しない。だからといって学究的な姿勢を否定し、処方の天然比率だけで語るのは酷だし、ナンセンスだろう。

 天然原料はトレーサビリティー確保の問題もある。化粧品メーカーは「情報開示をしてもらえない原料も少なくない」という悩みを抱えていると聞く。とくに海外で調達する原料に、こうした事例が多いようだ。サプライヤーとしても、開示したくとも追跡できない素材があるのだろう。だが、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証の取得が相次いでいるように、トレーサビリティー確保の潮流は今後、ますます強まっていく。

 天然原料には安全のイメージが付随する。実際には、とくに化粧品の付加価値化にも有効な新規天然原料には、不純物が混入していないか、毒性がないかを明らかにする必要があるが、これには時間とコストを要する。品質の安定性も大きな課題だ。自然は一定の品質を安定的に提供してはくれない。日本のメーカーは天然原料にも品質を追求するだろうが、それはサステナブルへの転換にとって足かせになる可能性もある。

 丈夫に作られた家電などはプラスチックを使っていたとしても、長く使うのなら、その存在はサステナブルであると言えなくもない。だが、毎日のように消費される化粧品は、本分である品質や機能の追求とともに、やはり環境への配慮は欠かせない。

 一企業での対応には限界があるが、相反する要素を両立すべく、業界全体で取り組もうとする有志は存在する。世界のトレンドに日本だけが遅れを取らないよう、サプライヤーとの縦の連携、また競争領域ではないところでのメーカー同士の横の連携も期待されるところだ。

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