欧州や北米の化学企業の間で投資案件の選別が進んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大を背景にした事業環境の悪化に対応したもので、大型投資の延期・見直しに踏み切る一方、成長分野への投資を続ける企業が少なくない。各社ともに、こうした判断を持続可能な成長に確実につなげねばならない。

 BASFのマーティン・ブルーダーミュラー会長は第3四半期の業績発表に際するアナリストとの会見で、2020年の設備投資額を6億ユーロ(約738億円)削減して28億ユーロにするとしたうえで、収益性に富む将来の成長のための投資を精力的に続ける方針を強調した。

 投資の対象は、中国広東省のフェアブント(統合生産拠点)新設プロジェクトや電池材料の生産体制の強化。広東省における総投資額は最大で100億ドル(約1兆300億円)に達する見通し。電池材料は自動車の電動化で今後、高い成長が期待されている。

 一方でインドのアダニグループ、アブダビ国営石油(ADNOC)、ボレアリスとインドで計画している石油化学プロジェクトは具体化を見合わせることにした。グジャラート州のムンドラ港にプロパン脱水素(PDH)設備を新設し、得られるプロピレンを原料にC3ケミカルのコンプレックスを建設する計画だったが、不安定な経済情勢が続いているため決断した。

 メタノール最大手のメタネックスは、米国のルイジアナ州ガイスマーにおける年産180万トンプラントの新設プロジェクトへの投資削減を堅持する半面、需要の回復にともない供給体制を段階的に強化する取り組みを始めている。同地の同100万トン規模プラントのボトルネックを解消して生産能力を約10%引き上げたほか、同80万トンのチリの「第4プラント」を再稼働させる準備に入った。ジョン・フローレン社長・最高経営責任者(CEO)によると、第4四半期に入ってメタノールの需要回復を背景に市況が好転してきたことが理由だ。

 独メルクの投資も目を引く。成長分野に位置付ける半導体や有機EL材料事業を強化するのが狙い。液晶材料の生産体制の再構築を進める一方、このほど中国と韓国での有機EL材料の生産能力の引き上げのほか、上海市に半導体と有機ELを対象にした研究開発拠点を建設することを決めた。

 新型コロナウイルス感染者の拡大は勢いを増し、世界経済は相変わらず厳しい状況が続く。選別を経て具体化する投資案件の成否は各社の将来を左右するものだが当然、求められる結果は成功のみである。

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