「国内医薬品産業の付加価値向上には何が必要か」-。13日に開かれた政府の経済財政諮問会議の席上、こんな議論が交わされた。住友化学の十倉雅和会長をはじめとする民間議員4人がまとめた提言に盛り込まれたテーマの一つで、創薬に対するインセンティブを高めるためには支援政策のあり方を広く検討し、課題を再整理すべきと訴えている。6月にも策定する「骨太の方針」に向け、薬価だけにとどまらないダイナミックな議論を期待したい。

 十倉氏らによる提言「成長と分配の好循環実現に向けた社会保障改革」では「人への投資」「全世代型社会保障の構築に向けて」「新型感染症の経験を踏まえた医療提供体制の整備」と並んで「医薬品産業の付加価値向上」を項目の一つに掲げている。国内製薬業界の収益力が海外に比べて低いという問題意識が、その根底にある。例えば主要製薬会社の総資産利益率(ROA)をみると、米国では平均5・7、欧州では同9・8であるのに対して日本は同4・2にとどまる。さらに国際貿易の観点からは、輸入超過額が拡大傾向にあることも指摘している。

 「医薬品産業の高付加価値化を図るには、薬価だけでなく、補助金なども含めた支援を総合的に行うことが重要である」-。今回の提言は、その点を改めて打ち出したものといえよう。提言に名を連ねた民間議員の一人であるサントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長は「大変問題なのは、薬価を医療費削減のツールにしている嫌いがあること」としたうえで、多面的な支援策を講じる必要性を再度強調した。

 これまでの創薬や医薬品開発支援をめぐる議論を振り返ると、厚生労働省を中心に、製薬業界やアカデミア、医療関係者による閉じられた枠組みで行うことがもっぱらだった。加えて、その手段も薬価によるものがほとんど。社会保障費に基づくという特質を考慮したとしても、新型コロナウイルス感染症の治療薬・ワクチンを巡る国際競争で一敗地にまみれたといっても過言ではない状況にあるなか、産業振興策の視点から果たして十分だったのか、検証が欠かせないだろう。

 今回の提言を受けて、山際大志郎経済再生担当相は「もう一回、日本を薬をちゃんと作れる国にしなければいけない。産業を興すくらいのつもりでやらなければいけない」と語り、予算措置も含め、その準備を進めていることを明らかにしている。日本の医薬品産業に対する期待感が高まる今だからこそ、広く社会に開かれたかたちでの議論が必要だ。

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