経済安全保障上の重要性が高まる半導体を巡り、世界の主要国間で綱引きが激しくなっている。13日に閉幕した主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、半導体など戦略物質のサプライチェーン強化で連携することを確認した。日本政府も、月内に閣議決定する成長戦略のなかで半導体や脱炭素を成長の原動力と位置づけている。半導体については、国内基盤の確保へ「従来とは一線を画する措置を講じる」としている。

 政府は、先ごろ取りまとめた「半導体・デジタル戦略」で、半導体について「失われた30年の反省と地政学的変化を踏まえ、大胆な基盤強化を図り、産業発展の方向に舵を切り替える」と明言。海外の半導体製造受託会社(ファウンドリー)との合弁設立などで国内製造基盤を確保することや、次世代技術の国産化を推進を盛り込んだ。

 すでに経済産業省は、台湾積体電路製造(TSMC)が茨城県つくば市に設ける研究開発拠点への補助を決めた。20社以上の国内の材料・製造装置メーカーなどと連携して3次元実装技術の開発を進める。加えてTSMCが、熊本県内でミドルエンドの半導体工場を建設する検討に入ったとの観測も浮上している。

 こうした動きについて、ある化学大手の幹部は「非常に歓迎できる」と評価する。半導体材料は日本企業の存在感が高い。例えば半導体の製造工程で使われるフォトレジストは日本勢が世界シェアの約9割を握るが「日本の半導体メーカーに育ててもらったことで現在の半導体材料のポジションがある」(同幹部)。

 「日の丸半導体」は1980年代に世界シェアの過半を握るなど隆盛を誇り、サプライチェーンに連なる材料メーカーも技術力を高めることができた。だが、いまや半導体の6割強を台湾や中国などの輸入に頼り、世界シェアも10%を割り込む。「国内に最先端の半導体企業を呼び込むことは次世代技術を開発するううえで大きい」(同)との言葉は、現状に対する危機感の裏返しでもある。

 国内誘致は半導体産業のチョークポイント(要所)であり、日本が強みを持つ材料・製造装置の研究開発の海外移転による国内空洞化を防ぐ狙いもある。一方で米国は半導体分野に5・7兆円、欧州は18兆円、中国は10兆円を投じる方針を明らかにしている。

 世界各国・地域の巨額を投じた誘致競争に引きずられる格好で、日本の半導体戦略が水泡に帰すシナリオもあり得る。日本には自国の強みと弱みを冷徹に分析し、勝てる分野に資本を効率配分する「ランチェスター戦略」が必須なのは言うまでもない。

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