国土交通省はこのほど、2021年版国土交通白書を発表した。そのなかで日本が直面している危機として新型コロナウイルス感染症と、災害の激甚化・頻発化の2つを挙げている。そのうえで日本が過去の危機を契機としてよりよい社会を実現してきたように、これらを乗り越えて「豊かな未来」を実現するべき-というのが、今回の白書の基本的考え方となっている。

 2つの危機によって加速化した変化、顕在化した課題を5つの観点から分析しているが、なかでも災害リスクや老朽化インフラの増大、海外と比べたテレワーク利用率の低さ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れと成長の停滞に目が止まった。

 静岡県熱海市で起きた土石流が記憶に新しいが、洪水、土砂災害、地震、津波のいずれかの災害リスクがあるエリアは国土の21%。一方、全人口の67・7%が、そのエリアに居住している。そうしたエリアの被害を減少させるための対策が必要なのは言うまでもないが、上場企業の本社が東京圏に集中するなど、災害リスクの高い地域への企業活動の過度な集中についても警鐘を鳴らしている。

 老朽化するインフラへの対策も重要である。防災・減災に重要な役割を果たすインフラは、多くが高度経済成長期以降に整備され、建設から50年以上経過する施設が今後も増えていく。そのため維持管理・更新を計画的に進めていく必要がある。

 東京に過度に人が集中することは、大規模災害が発生した場合などを考えると、さまざまな弊害が考えられる。しかしコロナ禍の影響により昨年7月から東京都は毎月、転出超過が続いている。転出先の86%を埼玉県、神奈川県、千葉県の3県が占める。テレワークの定着によって通勤の必要性が低下していることから、都心から近隣県への住み替えが起きているもようだ。一方でテレワークの日本の利用率は31%で、中国75%、米国61%などと比べて低い。多様な働き方を実現するうえでも今後の普及促進が期待される。白書では、他国に比べて日本のDXが遅れていることを指摘しつつ、コロナ禍を契機にテレワークの実践などが進んだことでDXの必要性が認識され、今後は取り組みが加速すると予想している。

 また「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」をはじめとした、さまざまな防災・減災対策、インフラ老朽化対策、テレワーク拠点整備のほかに、国土交通省が実施しているDXによる生産性向上に関する主な取り組みも紹介している。豊かな未来を実現できるよう今後の政策を期待したい。

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