コロナ禍から回復途上にあった世界経済に、再び下押し圧力が強まっている。エネルギー、鉱物、食料などの物価は需要が戻るにともなって上昇していたが、ロシアによるウクライナ侵攻でさらに高騰し、インフレに歯止めが掛かっていない。中国がロックダウンを解除する方針を打ち出すなど経済回復への明るい材料もあるが、ウクライナ戦争や物価上昇が長期化すれば、不景気下でのインフレを意味するスタグフレーションに陥る懸念がくすぶる。

 国際通貨基金(IMF)は4月、今年の世界経済の成長率予想を3・6%と、1月時点から0・8ポイントほど下方修正した。ウクライナ戦争で物価上昇圧力が強まったことが主因だ。物価上昇率は先進国で5・7%、新興国や途上国で8・7%と、それぞれ予想値を大きく上方修正した。

 米国では消費者物価指数が8%台と、40年ぶりの記録的インフレに見舞われている。物流混乱や人手不足を背景にインフレ傾向にあったところへ、ウクライナ戦争が拍車をかけた格好。連邦準備理事会(FRB)はインフレを抑え込むべくゼロ金利政策を解除し、さらに利上げする見通しなど金融引き締めのペースを速める方向にある。

 しかし今回のインフレは需要の過熱というより、物流の混乱や人手不足と供給側に大きな要因があり、金融政策だけで解決できるとは考えにくい。また利上げはドル高を招き、ドル建ての対外債務を多く抱える新興国に深刻な影響をもたらす恐れがある。

 新興国の多くは、対コロナ禍で感染者の救済や医療制度の強化のため財政出動する一方、感染拡大により税収が減り財政赤字が拡大。債務が膨らむなか、ドル高により対外債務の返済負担が増すことになる。新興国では自国の通貨安が進み、一段とインフレ圧力が強まりかねない。

 欧州は最も危機的な状況にある。ロシア産エネルギーの依存度が高いなかで、欧州委員会はロシア産石炭・石油の禁輸措置を表明し、天然ガスについても制裁措置に加えるよう検討している。かねて進めてきた循環型経済を目指す政策と方向は一致するが、再生可能エネルギーなどによる代替が、十分な量に達するインフラを整備するまで相当の時間を要するだろう。それまでに、もしロシアが欧州へのエネルギー供給を途絶するような事態になれば、経済停滞どころか死活問題となる。

 現在、世界が直面する危機を乗り越えるには多国間で連携する努力が欠かせない。そして立ちはだかる気候変動に立ち向かうためにも、国同士で無駄な争いを繰り広げている余裕はない。

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